新型コロナウイルス禍で就職難に苦しむ若者を支援する名目で、人材派遣大手パソナグループは16日、同社の新拠点として整備中の兵庫県・淡路島で契約社員として働きつつ、ビジネススキルを学べる制度「日本創生大学校ギャップイヤープログラム」の創設を発表した。2021年4月から最長2年間雇用する計画で、一期生として1000人を募集するという。だが、その制度内容が明らかになるつれて、インターネット上を中心に「新卒学生を奴隷にするものでは?」などと疑問の声があがり始めている。
研修費2万8000円と寮費・食費8万円を徴収
時事通信が16日に配信した記事『パソナ、就職難の若者1000人雇用 契約社員、淡路島で2年間』によると、「若者がキャリアの空白期間をつくらずに実務経験を積めるようにするのが狙い。対象は21年3月以降に卒業予定の新卒学生。今月以降開かれるオンライン説明会や面談などを経て、21年4月入社となる。詳細は専用ホームページで案内する」とされていた。
では、その詳細な内容はどうだったのか。同事業の応募登録ホームページから引用する。
「日本創生大学校『ギャップイヤープログラム』概要
パソナグループに入社し、最長2年間、働きながら『日本創生大学校』が提供するプログラムを通じて、ビジネスの基礎や社会人としての教養を身につけることで、キャリアブランクを作ることなく自らの可能性を広げるキャリア形成プログラム
(中略)
研修内容
『日本創生大学校』を通じて下記研修プログラムを提供
①社会人基礎講座
②社会教養講座
③文化芸術活動
(中略)
※上記研修プログラムは月額28,000円(税込)の有料カリキュラムとなりますが、任意受講であり、雇用関係に基づく労務提供を予定しているものではありません
※その他、パソナグループと大阪大学大学院国際公共政策学科が開講する『大阪大学グローバルリーダーシッププログラム』や、神戸大学がイノベーション人材の育成を目的に学部横断で立ち上げた『神戸大学V.School』等に参加可能」(原文ママ)
つまり事業の肝となる研修を受けるためには毎月2万8000円を支払う必要があるというのだ。加えて、各自実費負担として寮費2万6000円と水道光熱費込み食費5万4000円が必要という。
なお同グループが16日にリリースした広報資料『パソナグループ 緊急雇用創出・人材育成プロジェクト「日本創生大学校」始動 新卒未就労者支援「ギャップイヤープログラム」2021年4月開始』によると、契約社員としての勤務条件は淡路市内の同社施設に1週30時間のシフト勤務 (週休2日)で、月額給与は大学院卒・大卒16万6000円 (土日祝日勤務あり)、短大・専門卒16万1000円、高卒15万6000円となっている。これから、社会保険料などを引き、前出の研修費と寮費、食費などを加えると10万円以上が給与から差し引かれる計算になるのだ。
このため、Twitter上などでは「ほとんど身動きが取れない“奴隷島”状態」「貧困ビジネスですよね」などといった声が上がっている。
パソナグループ日本創生大学校『ギャップイヤープログラム』の担当者に事実関係を確認したところ、「研修費は月額2万8000円で有料となります。受講は任意で、必ずしも受講しなくてはならないものではありません」と話した。
サイトの就業イメージ(上の写真参照)を見る限り、研修を受けずに勤務することもできなくはない。だが、研修を受講することを前提とした制度設計であることは間違いないだろう。
「新卒時にカツカツの生活になる職業選択は避けるべき」
求人広告大手リクルートホールディングスの元就職コーディネーターは話す。
「研修内容がどのようなものかわからないので一概には言えませんが、本格的なビジネススクールに通うことを考えれば月額2万8000円は安いとは思いますが、窮乏する学生支援策だというのなら、いっそのこと無料で制度設計したほうが社会貢献活動としては評価されたのではないでしょうか。(パソナ会長の)竹中平蔵さんも、南部靖之CEOも自己責任論者ですからね。どうしても無料にはしたくないのでしょう。
一般論ですが、ある程度、志望職種など将来の方向性が定まっているのなら、地方のOJT(On-the-Job Training)がしっかりしている中小企業に正社員として入ったほうが将来的にはプラスかもしれません。
100人未満の企業では若い時からかなり裁量のある仕事を任されます。現段階で志望する大企業への就職は難しいけれど、いつかキャリアアップを図りたいというのなら、企業の規模や給料はそれほどではなくても、業績と実績を上げることが最も大切です。寮費は光熱費込みで1万円くらいの会社もたくさんあるので、貯金もできます。貯金を含む資産形成はキャリアプランの柔軟性を生みます。新卒であまりカツカツになるような職業選択をしないに越したことはないと思います」
応募し、採用される新卒学生の今後が気にかかる。
(文=編集部)