ビジネスジャーナル > マネーニュース > オフィス、無用化&大余剰が現実味
NEW
牧野知弘「ニッポンの不動産の難点」

オフィス、無用の長物化&大余剰が現実味…平均賃料2割減も容易に想定

文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役
オフィス、無用の長物化&大余剰が現実味…平均賃料2割減も容易に想定の画像1
「GettyImages」より

 コロナ禍は人々の移動の自由を奪った。その結果、不動産マーケットではホテルや商業施設といったセクターで大きな影響を被り、なかには倒産や廃業するところが出始めている。しかし、コロナはあくまで感染症のひとつ。やがては人類の手によって克服されることであろう。したがってホテルや商業施設の成績もやがては回復に向かうとみてよい。終息するまでの、いわば体力勝負になっているのが現状だ。

 私自身が不動産セクターのなかで最も心配しているのは、実はホテルや商業施設ではなくオフィスだ。オフィスビルマーケットは五輪が開催される予定の東京都区部のみならず、名古屋、大阪を加えた三大都市圏から地方四市(札幌、仙台、広島、福岡)のマーケットも、今のところ好調をキープしてきているといってよい。20年8月現在、各エリアの空室率は東京(都心5区)で2.77%。名古屋2.91%、大阪2.71%と極めて低い水準が保たれている。この傾向は地方都市もまったく同じで、同時期のデータを拾うと、札幌2.28%、福岡2.87%など軒並み2%台の水準にある。

 オフィスの空室率は一般的には4%が貸し手、借り手の分水嶺といわれる。つまり4%を超えると賃貸借の条件交渉などでは俄然テナント側が優位に立てる、4%を切るとビルオーナー側が強気になる、そんな水準が4%なのだ。

 この物差しでみると、日本の主要都市はどこもオフィスはほぼ満杯ということになる。特に空室率が2%台になると、テナントはほぼ身動きができない状況に陥る。つまり、あるテナントが業容などの拡大で、もっと広い大きなビルに借り換えようと思っても、マーケットには適当な物件がないという状況を物語っているのだ。

 今回のコロナ禍では、すでに業務の大半をテレワーク化して、余分となったオフィス床を減らしていこうという動きが一部で顕在化しているとの報道が相次いでいる。富士通は23年度までに現在のオフィス床を半減させる、ドワンゴはオフィスそのものをなくすなどといった発表だ。

 その一方で、こうした素早い動きをしているのは、東京の渋谷などにオフィスを構えている新興系のIT企業の動きであって、オフィスマーケットそのものに深刻な影響を及ぼすものではないとの見方もある。

 さらに一部のデベロッパーからは、コロナ禍が過ぎ去れば、オフィスにはコロナ前と同様に社員が出勤するようになる。それどころか企業は、従業員の感染リスクを極小化するために社員同士のソーシャルディスタンスを保たなければならないので、社員間の机を2メートル以上離すことが必要になる。だからオフィス床を増床するだろうとの観測まで出ている。

 確かに一部の裕福な企業では、そうした対処をするところもありそうだが、多くの企業では、社内の部署ごとにテレワークができる部署、できない部署に分け、社員の多くをシフト勤務にしていくのが、これからの大きな流れになるのではないかと睨んでいる。そう考えるとやはり、多くのオフィスで床が余るという現象は避けられないものになってきそうだ。

1割がテレワークになれば大きな変化

 人々の働き方の形態そのものが今回のコロナ禍を契機に大きく変わる可能性があるというのが、ポスト・コロナにおける大きなターニングポイントなのである。そうした意味では「結局もとに戻る」という意見は、コロナ禍は一過性の感染症にすぎず、働き方そのものには大きな変化は生まれないという前提に立っているということになろう。

 しかし、そう言っている多くの人たちは実は古くから存在する大企業の役員たちだ。組織は大きくなるほど保守的になると言われるが、ポスト・コロナはたいした変化は生じず、「元の世界の戻る」と信じたい気持ちもうなずけなくはないが、ただ実態はどうだろうか。

 オフィスビルマーケットは、これまで実体経済の好不調に約半年遅れて影響を受けるといわれてきた。この伝から行くと、オフィスマーケットに予兆が現れてくるのは20年秋以降ということになる。

 日本総研の予測では、企業従業員の1割がテレワークになった場合、東京都心5区の空室率は15%近くに急上昇し、平均賃料も約2割下落するとしている。たかが1割と思うかもしれないが、現在の空室が2%であっても1割の社員が完全テレワークになれば、その分のオフィス床は不要になる。当然空室率は10%程度は悪化することになる。

高層ビルがステータスであった時代の終焉

 気を付けたいのは、やはり人々のマインドがコロナ前とコロナ後では大きくチェンジしたことにある。これまでのいわば常識であった働き方が実は違うのだ、違ってもよいのだ。通勤なんてしなくても仕事はできたんだ、という気づきをオフィスで働くほぼ全員が「共有化」できたところにある。

 ポスト・コロナ時代において、オフィスはその役割をずいぶん変質させていきそうだ。これまでは全員がひとところに集まって仕事するという組織体が存在し、その存在を内外にアピールするためにオフィスは必要だった。ところが実際にはオフィス床というものが、必ずしも働く場として必要なものではないとわかった瞬間、オフィスの存在意義を問い直されたのがこのコロナ禍だった。

 社員から見れば、会社という「ムラ」の存在を強烈にアピールしてきたのがオフィスだったが、そのオフィスに通うことが仕事の価値ではないことに気づいたポスト・コロナにおいては、オフィスはただ単に時折、社内外の人と会って互いの存在を確認するだけの場になっていくことになりそうだ。

 存在の確認すら、実際には必要なく、これからは一部のヘッドクォーターのみを残して、組織は限りなくバーチャル化していくものと思われる。このようになると、現在都心部で大量に供給されているオフィス床は、ひょっとすると無用の長物と化していくことも想像される。

 かなり多くの企業では一部のヘッドクォーター機能だけを残して、テレワーク中心の組織体制にする。ワーケーションなどを活用して郊外や地方への分散を促進するようになるだろう。そうした意味でパソナが本社を淡路島に移転するとした発表は、世間を驚かせるには十分にインパクトのあることであったし、今後のオフィスのあり方を問いかけるものとなりそうだ。

 ポスト・コロナは、都心部のあり方を確実に変えていくことは間違いがなさそうだ。多くのオフィスは郊外などのコワーキング施設や企業が独自に展開するサテライトオフィスになっていくだろう。そうしたオフィスは何も高層ビルである必要もない。高層ビルがステータスであった時代はすでに過ぎ去っているのだ。郊外の自然豊かなオフィスで働くのが普通の働き方になってくるだろう。

 私は以前REITの社長をしているとき、企業IR(Investor Relations)でスイスにあるネスレの本社を訪れたことがある。そのオフィスはレマン湖のほとりにある低層の建物で、オフィスと湖のあいだには綺麗に芝生が敷き詰められ、見事な景観であったことが忘れられない。

 そのネスレで働く日本人従業員の方とも話をしたのだが、彼はもはや東京に戻ってあのクソ混みの通勤電車に乗って、無味乾燥な高層ビルで働くなんて金輪際できないとうそぶいていたが、どうやらやっと日本にもそんな素敵なオフィスで働ける時代がやってくることになりそうだ。

 コロナ後はオフィス大変革時代の到来なのだ。

(文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役)

牧野知弘/オラガ総研代表取締役

牧野知弘/オラガ総研代表取締役

オラガ総研代表取締役。金融・経営コンサルティング、不動産運用から証券化まで、幅広いキャリアを持つ。 また、三井ガーデンホテルにおいてホテルの企画・運営にも関わり、経営改善、リノベーション事業、コスト削減等を実践。ホテル事業を不動産運用の一環と位置付け、「不動産の中で最も運用の難しい事業のひとつ」であるホテル事業を、その根本から見直し、複眼的視点でクライアントの悩みに応える。
オラガ総研株式会社

オフィス、無用の長物化&大余剰が現実味…平均賃料2割減も容易に想定のページです。ビジネスジャーナルは、マネー、, , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!