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相原孝夫「仕事と会社の鉄則」

在宅勤務“先進国”の米国、すでにリモワ廃止&オフィス勤務義務化へ回帰という現実

文=相原孝夫/HRアドバンテージ社長、人事・組織コンサルタント
在宅勤務“先進国”の米国、すでにリモワ廃止&オフィス勤務義務化へ回帰という現実の画像1
「Getty Images」より

 2020年の新年度は、思わぬ始まり方となった。ちょうど新型コロナウィルス感染の重大局面の時期であり、外出自粛が強く要請された。多くの人を集めるイベント事はことごとく中止となり、企業での入社式もウェブを通じて行われるなどの対応がとられた。

 学校も休校が延長され、多くの企業でも在宅勤務を原則とするようになった。これまでも、働き方改革の一環としてリモートワークが試されてきていたが、今回は、好むと好まざるとに関わらず、強制的にそのような状態に置かれることとなった。少人数の打合せでも、ある程度多くの人数の会議でも、ウェブ会議システムを活用して行われるようになった。何度も行っていると確かに慣れも出てきて、わざわざ互いに時間をかけて移動して打ち合わせをする必要はないことも認識させられもした。

 これで一気にリモートワークが進むかといえば、のちほど述べる理由から、そうは思えないものの、少なからずウェブを介してのやりとりに対する抵抗感が払拭されるといった効果はあったのではないだろうか。

 特に、こうしたことにあまり乗り気ではない、私のような中高年ビジネスパーソンにとってみれば、こうした強制でもない限り、ウェブ会議などは避けて通りそうである。対面でのやりとりのメリットばかり強調しがちであり、ウェブ会議など不慣れなものはどうしても敬遠しがちになるからだ。

 ただし、どうしてもウェブ会議には向かないと思われるシチュエーションもある。たとえば、初めて会う人との打合せだ。互いによく知っていて、気心が知れている相手との打合せであれば、特に問題は感じない。ウェブでのやりとりに慣れてしまいさえすれば、対面の時と同じように、互いに忌憚のない意見を言い合い、打合せの効果がさほど下がったようには思われない。しかし、初めて会う人の場合にはだいぶ異なる。

 どういう考えを持った、どういうキャラクターの人なのか、わからないまま、突っ込んだ話し合いをすることはたいへんに困難を伴う。そもそも、ウェブを介したかたちで「はじめまして」と言うこと自体に躊躇がある。同じ場にいれば、他愛もない話をしたり、ジョークをとばしたりし、距離を縮めることもできる。誤解が生じても、多少のやりとりで解消することができる。

 その「場」を共有することで、1時間もあれば信頼関係を築くこともできるであろう。しかし、物理的に離れている場合、なかなかそうはいかない。ジョークを言おうにも、その場の空気を読めない以上、それが適合するタイミングなのか、あるいはそぐわないタイミングなのか、判別することは難しい。空気を共有していないので、言葉には表われない、空気を通して感じ取るメッセージを正確に理解することは難しいからだ。

アメリカIT企業ではリモワ離れ

 これは初めて会う人に限ったことではない。面識はあっても、良くは知らない人、信頼関係をいまだ築けていない人が相手の場合は、同様のことが起こり得る。誤解が生じてしまい、関係が悪化してしまうようなことは十分起こり得るのだ。実際に、リモートワークへの取り組みが日本よりだいぶ進んでいる米国において、そうした問題がすでに多く見られている。結果、IBMをはじめとして、「リモートワーク制度」廃止の動きが起こっている。

 リモートワークの先駆者ともいえるIBMは、2017年5月にリモートワークの廃止を発表し、数千人もの在宅勤務の従業員に、「オフィス勤務か退職か」をつきつけた。同様に、アップル、グーグル、フェイスブックも、リモートワークを勧めてはいない。むしろ、労働環境を快適にしてオフィスを魅力的にすることによって、社員にオフィスで働くメリットをアピールしている。また、IBMと同じく、かつてリモートワークを積極的に実施してきた米ヤフーも、勤怠管理がうまくいかなかったため2013年にリモートワークを廃止している。

 リモートワークは、個人で自己完結する仕事を行う上では効率的であり、向いている。しかし、他者と強調しつつチームで働くということには向いていない。IBMが従業員をオフィス勤務に戻した理由は、社員間のコミュニケーション不足と言われている。特に、イノベーションを起こすためには、社員間の密なコミュニケーションや信頼関係が大切だ。そのためにはオフィス勤務で日々の何気ない会話や気遣いなど、顔を合わせて仕事をすることが必要と判断したと考えられる。

 リモートワークをする社員が増えれば、チームビルディング等の職場としての一体感を強化する取り組みは必要とされなくなるような誤解があるかもしれない。しかし、実際は、リモートワークが増えれば増えるほど、職場としてのまとまりはかえって重要となる。なぜなら、米国ですでに起こっている通り、十分な信頼関係がない場合、リモートワークはうまくいかず、生産性が低下するばかりか、人間関係さえ崩壊させかねないからだ。

 よって、採用して間もない社員などにそのような働き方をさせることには無理がある。まずは一定期間一緒に働き、信頼関係をつくる必要がある。信頼関係があってこそ、機能する働き方だからだ。結局のところ、逆説的になるが、リモートワークを進めるうえでのカギは、対面での信頼関係づくりにあるということになる。

相原孝夫/HRアドバンテージ社長、人事・組織コンサルタント

相原孝夫/HRアドバンテージ社長、人事・組織コンサルタント

早稲田大学大学院社会科学研究科博士前期課程修了。マーサージャパン副社長を経て現職。人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わる企業支援を専門とする。著書に『コンピテンシー活用の実際』『会社人生は「評判」で決まる』『ハイパフォーマー 彼らの法則』『仕事ができる人はなぜモチベーションにこだわらないのか』など多数。

株式会社HRアドバンテージ

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