【宝くじの闇・上】還元率最低のボッタクリ…販売独占する日本ハーデス社の不透明な実態
今年は新型コロナウイルス感染拡大による不況で、「一攫千金」を体現した宝くじの売れ行きが伸びそうだ。総務省の巨大利権である宝くじは「社会的弱者の税金」とも呼ばれ、「夢」に釣られる庶民から追加で税金を吸い上げるストローとして機能してきた。公営ギャンブルとしては最低の還元率を誇るボッタクリ商品な上、販売実務を取り仕切るみずほ銀行と委託先の日本ハーデス社の事業実態は、カネの流れを含めて、「公営」とは思えないほど不透明だ。毎年恒例の年末ジャンボ宝くじの最終発売日である25日に目前に控えた今、宝くじの闇を明るみにする(全3回連載)。
宝くじは日本屈指のボッタクリ賭博
25日前の最後の大安である21日、全国で最も当たりが出るといわれる東京・銀座の「西銀座チャンスセンター」には、朝の開店時から閉店まで長蛇の列が絶えなかった。こうした光景が毎年恒例となっている宝くじは、刑法が例外として認める公営ギャンブルである。農林水産省の競馬、国土交通省の競艇、警察庁のパチンコと同様、総務省が旧自治省時代から持つ利権中の利権で、関連団体は有力OBの天下り先となってきた。
まず、仕組みについて説明しよう。宝くじの公式サイトによると、総務省から宝くじの販売の認可を受けた都道府県や政令市といった地方自治体が受託銀行に委託し、その銀行が諸々の業務を業者に再委託している。
宝くじの売上は約4割が当選者への賞金の支払いに、約4割は地方自治体の財源に、約1割が業者などへの経費に配分される。令和元年度の販売実績は7931億円で、3684億円が賞金に、3054億円が地方自治体に、1088億円が売りさばき料や印刷費などの諸経費に、105億円が社会貢献広報費として分配された。
宝くじの約4割の還元率は、競艇、競輪、オートレース、競馬が7割を超えるのに比べれば圧倒的に低い(宝くじ以外は賞金に納税義務が発生するが、それを差し引いても約6割の還元率)。ギャンブルは胴元が必ず儲かる仕組みとはいえ、買った瞬間に半分を税金で持っていかれる構造になっており、宝くじの購⼊者に積極的に還元する姿勢は弱いと言わざるを得ない。
地方自治体の収益金の使い道はほぼフリーハンドで、「総務省が自治体に与えるお小遣い」(同省取材の長い全国紙記者)となっている。ハコモノ建設などに充てられるケースが少なくなく、納税者から追加で事実上の税金を取るかたちで財源確保するような必要性が必ずしもあるとは思えないのが実情だ。
全国の販売を裏で支配する日本ハーデス社
地方自治体側からの販売業務は、みずほ銀行が独占してきた。これは前身の日本勧業銀行、第一勧業銀行が宝くじ業務に携わってきた歴史的経緯によるもので、「独自のノウハウがいるので、今さらメリットがない」(みずほ関係者)ことが他⾏の参⼊を妨げてきた。ちなみに、みずほが独占していることは、先の宝くじ協会の公式ホームページの売り場検索で「三菱東京UFJ銀行」「三井住友銀行」と調べても支店が1つもヒットしないが、「みずほ銀行」と検索した場合、大量に売り場が見つかることからもすぐにわかる。
宝くじについては、みずほの中でも第一勧業銀行出身者の縄張りとされ、みずほが販売を委託する民間業者の日本ハーデス社の代表取締役は代々同行出身者が務めてきた。ハーデス社の登記によると、代表取締役の鈴木直人氏は第一勧銀出身で元みずほ銀行常務、前任で今年6月末に退任した大串桂一郎氏も元みずほフィナンシャルグループ執行役専務と、第一勧銀、みずほ出身者がズラリ。現在のハーデス社の取締役を務める藤岡一晃氏も元みずほ銀行執行役員と、みずほ内の第⼀勧銀出⾝者の優良再就職先として機能してきた。
このハーデス社は謎のベールに包まれている。ホームページに電話番号の記載がなく、109の電話番号案内サービスにも登録がない。グループ会社にいたっては会社名だけの記載でホームページ自体がない。非上場企業で開示義務はないとはいえ、極めて公共性の⾼い巨額のカネを扱うにしては、売上などの財務情報も明らかにしておらず透明性に問題があるといわざるを得ない。
ハーデス社のホームページによると、販売会社17社、グループ内商社業務などを担うクロノス社と計18社のグループ会社を従える。従業員数はグループ全体で約1万1000人の大企業であり、売り場総数はグループ全体で約2600。「全国の売り場の約7割を仕切り、宝くじ販売の売上の半分近くを独占している」(先のみずほ関係者)という。
少し古くはなるが総務省の2010年の調査では、09年度の時点で有人売り場総数に閉める専業業者の売り場数は4362。単純計算するとハーデス社は6割の売り場を独占していることになるが、この当時から宝くじの売上が約3割減少しているため、売り場数も減少しているとは考えられ、「売り場の約7割、販売の半分」というのは信頼できる証言と言えそうだ(ちなみに、冒頭に紹介した「⻄銀座チャンスセンター」もハーデス社グループが運営する)。
ハーデス社はギャンブルとはいえ、「公営」の事業を受託する以上、会社役員の人件費が必要以上に高かったり、本来地方自治体や購入者に還元されるべきカネが業績として不当に吸い上げられていたりというような問題が生じないよう、外部からのチェックを受けてしかるべきだろう。
Business Journal編集部を通して、質問状をみずほフィナンシャルグループ広報室、
⽇本ハーデス社に送った。みずほに対する質問と回答は以下の通り。
【質問1】
日本ハーデス株式会社とそのグループ会社には、第一勧業銀行出身者をはじめとする貴社関係者がトップや幹部に歴代にわたって就任されておられますが、日本ハーデス社を通じて事実上、貴社が全国の宝くじ販売業務を独占しているとはいえないでしょうか。
【回答1】
日本ハーデス社の役員等に弊社グループ出身者が就任していることについては、他の一般事業会社への人材斡旋と同様に同社の要望に基づいて対応しているものです。また、みずほ銀行は宝くじ販売等の事務を受託し、地方自治体が定めた発売計画に従い、業務を遂行しております。みずほ銀行の営業店以外の売り場については、売り捌き業者へ再委託しておりますが、再委託先の選定・管理については宝くじ発売団体の指導等を受けつつ、厳正に対応しております。
【質問2】
もし上記の実態が存在するのであれば、貴社は日本ハーデス社とともに宝くじに関連する収益など、金銭の流れについて公表するなど、透明性を高めるべきではないでしょうか。
【回答2】
ご指摘の様な実態はございません。
また、日本ハーデス社に対しては以下の内容の質問状を送付したところ、「当社グループの宝くじ販売会社は、宝くじ販売等の事務において受託銀行による指導等に基づき、適切に業務を行っております。なお、ご質問の内容につきましては、個別の回答を差し控えさせて頂きます」という返答が寄せられた。
【質問1】
公共性の高い「宝くじ」の販売を、貴社がみずほ銀行から独占的に受託し続けておられる根拠は何か、ご教示いただけますでしょうか。
【質問2】
極めて公共性の高い「宝くじ」という事業を通じて得た収益や金銭の流れを公開するのは、企業として義務とも考えられますが、そのご予定はございますでしょうか。
【質問3】
貴社のホームページには電話番号が記載されておらず、グループ会社にはホームページがありませんが、公共性の高い事業を担う企業としては不適当と考えられますが、公開されるご予定はございますでしょうか。
みずほ「独占」を認めず
みずほの回答によると、ハーデス社を通じた「独占」の実態はなく、「再委託先の選定・管理については宝くじ発売団体の指導等を受けつつ、厳正に対応している」とのことだ。グループ出身者の再就職についても「他の一般事業会社への人材斡旋と同様に同社の要望に基づいて対応している」という。しかし、これまで書いてきたように、事実上日本ハーデス社のグループ会社が日本の売り場の7割程度を握っている現状は「独占状態」であることは疑いない。再就職についても「要望に基づいて対応している」とは既得権益を守るための、何とも苦しい言い訳にしか聞こえない。透明性にしても、公営ギャンブルである宝くじの販売業務という極めて公共性の高い事業である以上、民間企業であったとしても情報公開すべきだろう。
日本ハーデス社は返答はあったものの、核心部分には触れておらず、およそ公共性の高い事業を委託するにふさわしい企業の対応とは思えない。
宝くじ協会が16年に実施した調査によると、過去に1度でも宝くじを購入したことのある人の割合は国内の4分の3に当たる推計約8000万人に上るという。数ある公営ギャンブルのなかでも最も身近な宝くじが庶民の「一攫千金の夢」を養分に、一部の人間の利権と化していることは看過できない。購入額の半分が事実上の税金として取られる仕組みを採用しているのなら、即刻、カネの流れを明らかにして、透明性を確保すべきだろう。
次回は民主党政権時代の追及が中途半端に終わったため、総務省の天下り先として関連団体が生き延びている現状について明らかにする。
(文=松岡久蔵/ジャーナリスト)