三井弁護士は、ライブドアのニッポン放送株取得に際して、ライブドアの弁護人を引き受けたり、現在はモスフードサービスの顧問弁護士を引き受けるなど、法曹界では名の知られた人物である。東京アセット側は三井弁護士を信じて、契約を任せた。だが、東京アセットは知らなかったが、三井弁護士は、なんとシティグループとも弁護士の契約を結んでいたのだ。
●弁護士がシティへ情報を横流し?
ここからはシティグループの独壇場である。キャンセルの約2カ月後の10月28日に東京アセットに対して、払えないことがわかっている50億円を請求、ホテル2棟を競売にかけ、43億円で売り飛ばしてしまう。ところがホテルを買ったのはシティグループなのだ。自分たちが借金のかたにとったホテルを、自分たちで買ったわけだ。
こうして1年がかりの工作を経て、時価総額約132億円の日本のホテルが、半額以下の50億円でシティグループに買われてしまったのである。あまりにも鮮やかである。
東京アセットが内金の50億円を使わざるを得ない状況にあったこと、ホテルの賃貸人との交渉がスムースに運ばないことを見越したかのようなシティグループ。そのために、双方の弁護士を務めている三井弁護士が、シティグループに対して東京アセットの情報を提供し、かつシティグループに有利な契約を結んだ可能性は否定できない。
現在、裁判は進行中であり、三井弁護士の利益相反を事由とする弁護士免許剥奪と、シティグループの契約のキャンセル時に発生するキャンセル料13億2070万円の支払いがポイントになっている。
東京アセットとシティグループの係争は、外資系投資グループによる国内資産の収奪の一例に過ぎない。そして日本人の中で、まるで彼らの手先かのように限りなく違法に近い行為を行う弁護士や銀行家がいる。金融ビッグバンの時、日本長期信用銀行は外資系投資会社による不当な株価操作を受け、破綻した。つまり旧弊をなくすという名目の構造改革は、アメリカの投資会社が日本の資産を買い漁り、奪えるように法改正を行うことがその本質だったのだ。
企業や資産の買収では、日本では違法でもアメリカでは合法のやり方は多くある。現在の日本企業はアメリカ企業のそうした買収手口に防衛するノウハウを持たない。買収にもっとも敏感だった銀行、なかでも国策企業だった日本長期信用銀行(長銀)がアメリカに手玉に取られたことを忘れてはならない。TPPに加盟すれば、今度は金融のみならず、あらゆる産業分野が米国の餌食になる可能性も出てくる。外資系企業がどのような手口で日本の資産を奪っていくのか、私たちはその手口を知り、警戒する必要があるのだ。
(文=川口友万/ビジネスライター)