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「ダイヤモンド」vs「東洋経済」! 経済誌双璧比べ読み(7月第2週)

同性愛は6兆円市場?IBMも積極的にLGBT採用のワケ

文=松井克明/CFP
post_390.jpg(右)「週刊ダイヤモンド 7/14号」
(左)「週刊東洋経済 7/14号」

広告特集だらけの東洋経済

「週刊東洋経済 7/14号」の第一特集は『今こそ買いたい! マンション 戸建て』という住宅特集だ。住宅特集は各デベロッパーも取材に協力的とあって、「東洋経済」「ダイヤモンド」共に、毎年1冊は出している定番物だ。各業者からの広告も見据える企画なために、当然ながら取材のツッコミは甘くなる。

 今回も復興需要の本格化で建築資材の高騰傾向による価格上昇懸念に、建物部分にかかる消費税率の引き上げ、今後先細りしていく政府による住宅取得優遇策と、「今年よりは、来年、来年よりは再来年と、住宅購入を取り巻く環境は厳しくなる。今夏は住宅購入を決断する、ラストチャンスといえそうだ」と、今が買い時とばかりにあおっている。

 しかし、実はそれほど住宅は売れていないというのが、住宅業界の本音だ。デフレ下の住宅ローンは家計への負担が厳しいモノとなるうえに、地震活動が本格化し始めた現在、わざわざ「新築」というリスクを抱えようというノー天気な購入者はどれだけいるのだろうか。乱立する新築タワーマンションを抱えた業者は、値引きに次ぐ値引きでなんとか売り切りを図ろうとしているというのが現実だ。

 こうした業者の意向を反映してか、今回の特集の内容は業界の懐が潤う「新築」の話ばかりで、内容的にも目新しさもない(筆者としては、今どうしても買わなければいけないという人には、新築ほどのリスクがない中古をオススメする)。

 ただし、住宅特集でいえば、実は、「東洋経済」よりも、ライバル誌「ダイヤモンド」のほうが積極的にヨイショ特集を展開している。今年に入ってからだけでも、なんと、別冊形式で3冊も住宅特集を出しているのだ。

・『2/18号別冊 [新築]マンション・戸建て これで完ペキ! 「王道」の住宅選び』
・『5/19号別冊[新築]マンション 戸建て 安心・納得  成功する「住宅」選び』
・『7/28号別冊 マンション 戸建て 極上「中古」を探せ!「中古×リフォーム」の選び方』

 これら3冊は広告担当の主導で制作され、業界には、「御社のパブリシティ効果が期待できますよ」と広告収入目当てに営業に回るシステムだ。こうした業界依存型の雑誌作りでは、読者に役に立つ記事は期待できようもない。

 こうしたシステムは「ダイヤモンド」だけではない。「東洋経済」も同様だ。今週号を開くと広告特集ばかりなのだ。 『広告特集 ムダをなくす我慢と無理のない省エネの進めかた 制作・東洋経済広告企画制作部』(11頁)、『事後レポート ASEANへの不動産・インフラ投資フォーラム 主催・新日本有限責任監査法人』(4頁)、『広告特集・大学総合ガイド2012 制作・東洋経済広告企画制作部』(13頁)、『ワールド・トラベル特集 制作・東洋経済広告企画制作部』(9頁)、『インド・東南アジア 戦略フォーラム2012 制作・東洋経済広告企画制作部』(4頁)と、「制作・東洋経済広告企画制作部」のスポンサー頼みのパブリシティ記事ばかりなのだ。これでは、第一特集の住宅特集も業界のPRと疑いたくもなるだろう。

 しかし、出版不況の今、これほど広告に身を売ってまで雑誌を出し続けるのは、世の中に訴えたい記事を発信し続けるためといえるかもしれない。そう好意的に解釈したくなるのが、第二特集だ。

 今回の第二特集は『知られざる巨大市場 日本のLGBT』だ。LGBTとは、女性同性愛者(レズビアン)、男性同性愛者(ゲイ)、両性愛者(バイセクシュアル)、そして性転換者(トランスジェンダー)、それぞれの頭文字をとった性的マイノリティを指す総称だ。

 アメリカの人気キャスターがゲイであることをカミングアウトし、今年2月、オバマ米国大統領は結婚を男女に限った連邦法について憲法違反との判断を示した。これにより、同性婚の是非は今年の大統領選の争点の一つにもなりつつある。英国政府の調べによれば英国人の6%がLGBT、日本では公的機関から発表されたデータはないものの、約4%という説が一般的だ。国内市場規模は6兆6000億円規模(ポータルサイト運営会社のパジェンタ社、2006年調べ)ともされる最後の巨大市場ともいえるのだ。日本企業はLGBTに対し差別的な取り扱いをする一方で、ゴールドマン・サックスやIBMといった大手外資企業はLGBT向けリクルーティングに力を入れている。

 というのも、将来を案じて一般の学生よりも勉強に励む。また、東京大学や早稲田大学は大学公認のLGBTサークルもあるために、進学の目標としやすい。「個」を磨き、自分の視点を持っている。日本よりも生きやすい国に憧れて、語学習得に注力する。

 ……といった点からLGBTは能力が高く、日本企業が求めている理想のグローバル人材ともいえるのだ。ただし、現実的には、とある研究によれば、異性愛者ではない人の自殺未遂率は、異性愛者の約6倍にも上るという。「性的志向を隠さなければという強い抑圧で精神的に追い詰められ、生きづらさが増幅され、慢性的なストレスになっている」と見られている。

 インタビューにマツコ・デラックスが登場し、社会に対して望むものは「必要なのは法整備。特別なことをするのは逆差別につながるが、基本的人権は与えられるべきだ」として、パートナーへの相続ができるような法整備と、男女間に限定した婚姻というシステムの背後にある保守的な「家」制度の見直しを指摘する。今回の第二特集は14頁の特集ながら読ませどころがある。「週刊東洋経済 6/23号」の第二特集『携帯電話は安全か?』以来の独自調査の記事として評価したい! と思いきや、ライバル誌「週刊ダイヤモンド 7/14号」の第二特集もなんとLGBT特集なのだ。

第二特集はそろって「LGBT」特集!?横並び対決はダイヤモンドの勝利

 「週刊ダイヤモンド 7/14号」の第二特集は『性的マイノリティ「LGBT」 国内5.7兆円市場を攻略せよ』だった。

 こちらは、米国の動きを中心に紹介している。米国のLGBT市場の規模は約77兆円、日本のほぼ10倍だ(英国は約7兆円という推定)。米国の企業はこの巨大な市場を取り込もうとマーケティングを競い合っている。大手百貨店は同性愛者に対し差別的扱いをした店員を解雇。さらに不適切な発言をした選手に対し、NBA(米プロバスケットボール)は罰金を科するなど厳正な処分を行った。金融機関も、将来結婚しないカップル専門のファイナンシャルアドバイザーを育成する……といった具合だ。

 米国に進出している日本企業もLGBTマーケティングに躍起だ。富士重工のスバルは、広告にレズビアンのテニスプレーヤーを起用。以来、あるスバル車は「レズバルス」と呼ばれ、たいへん人気だという。

 一方で、消費者側もLGBTに対する企業の取り組みや考え方を指標として点数化し、バイヤーズガイドを作成するなど、両者間に緊張感のある空気が流れている。たとえば、「レズバルス」で人気のスバルは85点、LGBTマーケティングを行っているトヨタ自動車は100点満点、同性パートナーへの福利厚生や保険制度などが充実していない日産自動車は30点と低い。こうした緊張感がこれらの社会的な知名度を高めているとして、同誌には「LGBTは普通の生活者 非差別を掲げる企業は多くの支持を集める」とゲイであることをオープンにしている大阪・神戸米国総領事パトリック・J・リネハン氏のインタビューも掲載されている。

 国内に目を向けてもディズニーランドやパークハイアットはLGBT向けの同性結婚式を受け入れるなど、企業にとって大きな動きになりつつある。

 ところで、この時期になぜ、LGBTを特集したのか。実は、6月はLGBTのプライド月間として世界各地で盛大なパレードが開催されていた。そのうえ、5月には、オバマ大統領が歴史上初めて、同性結婚への支持を表明している。こうした世界的な動きから、この時期に特集が組まれたのだろう。

 しかし、両誌が同じ号の第二特集で横並びするほどのタイムリーさがあるかといえば、そうともいえない。しかも、中身を見比べてみると、データは「ダイヤモンド」のほうが新しい数値になっている。「東洋経済」の記事には今年2月、電通グループのシンクタンクである電通総研が行った「電通総研LGBT調査」と、オバマ大統領が同性結婚への支持を表明した5月のニュース(2月の発言までは紹介されている)、そして、6月のLGBTのプライド・パレードの紹介が一切ないのだ。

 ここから先は推測も混じっているが、ひょっとして「東洋経済」は、2月くらいには原稿になっていて、しばらく編集部で留め置きされていて、今回、横並び的に出したのではないかと思わせるくらいに鮮度がないのだ。「同誌 4/28・5/5号」では『OUTLOOK 企業におけるLGBT対応 「おネエ」だけじゃない 性的マイノリティとの共生を』という2頁モノの記事が掲載されているが、その頃に掲載されていれば画期的な内容になっていたはずだ。

 たとえば、国内の市場規模を「東洋経済」は「6兆6000億円」としていたが、これは06年のデータ。一方で、「ダイヤモンド」の「5兆7000億円」は、先述の「電通総研LGBT調査」の数字だ。また、この調査によれば、日本の人口に占めるLGBTの割合は約5.2%だという。しかし、「東洋経済」は、この「約4%という説が一般的だ」というそれまでの推定を紹介するにとどまってしまっている。なんだか惜しい! 記事ばかりなのだ。

「ダイヤモンド」のLGBT特集は、全18頁の特集で最新情報も充実しており、今回の横並び対決は、同誌に軍配を上げたい。

 なお第一特集は、『給料と仕事 将来比較』。平均年収の減少傾向が続くなか、5年後の年収はどうなっているかを、上場3255社のデータをもとに独自試算を行っている。07年と11年の売上高の変化率などをもとに平均年収上昇率を予測。トップ20には、介護・医療、ポータルサイト、小売業などが名を連ねている。

 しかし、6位に、苦戦が続くミクシィ(5年後平均年収上昇率 22.2%)、19位にはコンプガチャ問題のディー・エヌ・エー(同 13.1%)がランクインするなど、現実無視、データ偏重だとツッコミたくなるランキングなのだ。Part1の巻頭のキャッチコピーに「リーマンショックや東日本大震災など思わぬ事態に見舞われた日本企業。はたして5年前に今の給料は想像できたであろうか」と書かれているが、まさにその通り。結論は、誰も5年後の給料など予想できないのではないだろうか?
(文=松井克明/CFP)

松井克明/CFP

松井克明/CFP

青森明の星短期大学 子ども福祉未来学科コミュニティ福祉専攻 准教授、行政書士・1級FP技能士/CFP

『週刊 ダイヤモンド 2012年 7/14号』 データに強いダイヤモンド。 amazon_associate_logo.jpg
『週刊 東洋経済 2012年 7/14号』 広告入っていいな〜。 amazon_associate_logo.jpg

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