アベノミクス、「財政の現実」を無視…安倍一強体制、問われる国民の決断と投票行動
経済成長で税収増を図り、財政再建と経済再生の両立を図るというのがアベノミクスの戦略の一つであるが、2016年度決算における国の税収(55.5兆円)は当初予算の税収見積もりとの比較で2.1兆円下振れし、前年度比で0.8兆円落ち込み、7年ぶりのマイナスとなった。これは、日本経済が景気の下降局面に向かい始めている一つの証拠かもしれない。
このような状況のなか、先般(7月18日)、内閣府は「中長期の経済財政に関する試算」(以下、中長期試算という)の改訂版を公表した。この試算によると、2020年代初頭にかけて実質GDP成長率が2%程度まで上昇する高成長ケース(経済再生ケース)を達成し19年10月に予定している消費税率の引き上げを実行しても、20年度の国と地方を合わせた基礎的財政収支(プライマリーバランス:PB)は8.2兆円の赤字となる。しかも、このシナリオは、国の税収が毎年増加し、16年度から25年度にかけて約25兆円も増えるものにもかかわらず、政府が目指す20年度のPB黒字化は達成できない。
そもそも、中長期試算において、高成長の「経済再生ケース」が想定する「全要素生産性(TFP)」は、楽観的で非現実的なシナリオである。16年度のTFPは0.6%にもかかわらず、20年代初頭にかけて実質GDP成長率が2.2%程度まで上昇するシナリオで、これは日本経済がデフレ状況に陥る前の1983年から93年のTFPの平均で、概ねバブル期でのTFPの値に近いものである(図表参照)。これが、02年度から15年度にかけての実質GDP成長率の平均は0.8%であるにもかかわらず、経済再生ケースでは実質GDP成長率が20年代初頭にかけて2%程度に上昇する主なカラクリである。
このような楽観的で非現実的なシナリオからは決別し、「財政の現実」を直視しなければならない。中長期試算において、実質GDP成長率が0.7%(名目成長率1.2%程度)の慎重なシナリオ(ベースラインケース)では、25年度の財政赤字(対GDP)は4%程度と予測するが、増税を先送りすれば、赤字幅は5%程度に拡大することは確実である。
この場合、ドーマー命題を利用すれば、最終的に収束する公債等残高(対GDP)は416%に達してしまうことも読み取れる。「財政民主主義」という言葉が表すとおり、財政は「政治の鏡」であるが、財政規律を取り戻すか否かは我々国民の選択次第である。安倍一強体制が揺らぎ、残り1年半以内に衆院選が迫るなか、いま我々国民の決断が問われている。
(文=小黒一正/法政大学経済学部教授)