タイ南部の都市・パタヤの現役警察官が、偽造の逮捕状請求書類を発行し、日本人を逮捕すると脅迫する事件が発生した。昨年8月に発生したものだが、パタヤ警察署長がその事実を認知しながら、今年8月現在に至っても当該警察官をそのまま勤務させているため、被害が拡大しており、警察署による組織ぐるみの事件である疑いが強まっている。
このような事件が起きる背景には、多くの日系メーカーがタイ南部の工業団地へ進出しているという事情がある。日系メーカーは海外生産を進めてきたが、その進出先はアジアが全体の7割(註1)と圧倒的に多い。アジアのなかでも現在は中国の政治的なリスクが大きくなったことから、東南アジアのタイなどに進出先を移しており、進出が加速している。
タイ工業団地公社のデータによると、タイ国内にある約50の工業団地の入居企業のうち約40%を日系企業が占める。これは外資系のなかでも第1位の規模であり、第2位はアメリカ系企業の約9%なので、いかに日系企業の数が抜きん出ているのかがわかる(註2)。
タイ政府もタイ国内の産業育成と雇用促進のために日本からの投資、進出を奨励している。両国政府は今年6月7日に東京で「第3回 日タイハイレベル合同委員会」を開催。日本側は菅義偉官房長官、タイ側はソムキット副首相が共同議長を務め、タイの経済圏(EEC)開発、鉄道開発などを共同で行う覚書に、日本側は世耕弘成経済産業大臣、タイ側はウッタマ工業大臣が調印した。
タイのなかでも現在は洪水リスクなどが少ないタイ南部に多くの日本企業が進出しているが、バンコクのような都会とは異なり地方都市である。そこでは警察などの一部に腐敗が進んでいる現状があることから、現地の日本人にもさまざまなトラブルが多数発生している。
偽の逮捕請求書類で、パタヤ警察が日本人を恫喝
昨年8月末、パタヤにある日系企業に勤務していたA氏の自宅に、パタヤ警察署から逮捕状にみせかけた書類が届いた。「B氏から詐欺での被害届が出ている。警察に7日以内に来なければ、逮捕状を請求して逮捕する」という。この書類は、正確には逮捕状の請求書類である。B氏は会社の同僚だが、詐欺と言われる覚えはまったくなかった。
そこでA氏はタイ人の友人を頼り、パタヤ警察に問い合わせをした。するとパタヤ警察では「そんな事件の記録はない。担当に直接聞くように」と言われた。不審に思ったA氏側は実際に警察に行き、担当のパタヤ署の警察官、及びB氏側と面談をし、詐欺などした事実はないと弁護士を立てて証拠を揃え説明を行い、B氏側の被害が虚偽である旨を説明した。
その上で改めてA氏側がパタヤ警察を問いただし、昨年11月初旬にパタヤ署の署長室で署長と会うこととなった。すると署長は、事件は実際には警察内部で承認どころか報告もされていないもので、なんら承認も得られていない逮捕状の請求書類を、担当警察官が勝手にサインして偽造したものだと認定した。