当然ながらパタヤ署長としては、この悪質な未承認書類の偽造について真相を究明し、必要な処分をすべきだが、事実を確認しても担当警察官を処分していない。また、パタヤ署長はB氏に、被害届の提出や告訴など正式な手続きを取るように伝えたが、B氏は実際には被害など受けていないため被害届も告訴も出さずに告訴期限を超え、事件化は不可能となっている。
この件についてタイの上級弁護士は次のように解説する。
「A氏のもとに届いた書類は、裁判所に逮捕状を請求する前段階の警察内部の書類です。つまり、任意聴取のための書類です。これを逮捕できるかのように嘘をついて突きつけられれば、恐怖を感じるのは当然でしょう。警察の内部で承認どころか報告もしないで、こうした書類を発行できるということは、警察官一人であらゆる行為を勝手にできてしまうということを意味し、法治国家として大きな問題です。本書面は弁護士が見ても本物か偽物かの判断はつかず、警察へ確認しなければ真偽はわかりません」
改善されないパタヤ警察署の体質
こうしたパタヤ警察の体質は改善されないばかりか、一般の法人や個人にまで広まっている。6月にも、欧州系の不動産開発会社がパタヤ警察に100万バーツ(約330万円)の賄賂を払ったという話が流れたが、警察への賄賂は常態化しているという。
大手日系企業幹部はいう。
「タイ南部には日系大手メーカーの工場が増加しており、タイ政府も投資の奨励を促しているが、現状のようにリスクが高いままでは安全上の問題が大きくなり、進出は難しくなる。タイ国民のためにはもちろん、外資系企業の進出のためにも、一部にはびこる警察の腐敗を根絶してリスクを減らすよう、タイ政府には要望を伝えていきたい」
また、日本の警察庁OBで危機管理コンサルタントの屋久哲夫氏は、次のように語る。
「日本においては、警察官が賄賂をもらって偽の書類を作成したり、犯罪者の片棒を担いだりということは、まず考えられませんが、残念ながら海外の地方警察ではその種の噂が絶えません。そもそも、現地の法制度に精通することは困難であり、ましてや現地語で書かれた書類の真偽など外国人が自分で判断することは不可能といえます。騙す側は相手を選び、新参者や観光客が狙われる傾向にあります。現地事情に疎く、気軽に相談できる人がいないように見える人が狙われやすいですので、そう見せないことが一番の予防法となります。
例えば、日本人が進出している地区には、日本人会ができ始めており、同会を弁護士が支援したりしているようなので、日本人会に入会するのも一つの手だと思います。実際にトラブルに巻き込まれたら日本人会に相談するなど、現地の事情に詳しい人間の協力を得て、警察署や裁判所に事実を確認してから行動すべきです。少なくとも『金で解決できるなら払ってしまおう』などと軽はずみな行動をすることは、厳に慎むべきです」
海外では、悪質な警察官が好き放題している地区もある。パタヤ警察に関しては、トップ以下が見て見ぬふりしている感もあるが、しっかりした真相究明、関係者の処分、再発防止策が待たれる。
(文=関村泰久/ジャーナリスト)
【註1】2016年経産省「海外工業団地事業調査」―「日系製造業の現地法人設置地域」より)
【註2】タイ工業団地公社資料