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昨年から株価爆増中の岩谷産業とは何者なのか?「水素社会到来」という理想と現実

文=編集部
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岩谷産業 HP」より

 1月13日の東京株式市場で岩谷産業株が一時、前日比300円(4%)高の7470円まで上昇し、株式併合を考慮した実質で上場来高値を更新した。株価は昨年9月から一直線の上昇トレンドを形成。2020年の東証1部上場企業の株価上昇率ランキングで15位、3715円(19年末の終値)から6360円(20年末の終値)へと71.2%高を記録した。今年に入ってからも連日上場来高値の更新を続けている。

 世界的に脱炭素への取り組みが加速するなか、燃焼時に二酸化炭素を排出しない水素はクリーンエネルギーの切り札として注目されている。産業用ガスや家庭用ガスの専門商社で水素事業を収益の柱とする岩谷産業に、投資マネーが流入している。

水素社会の実現を推進する団体を設立

 菅義偉首相は20年10月26日、就任後初めて行った所信表明演説で、50年に地球温暖化の原因となる二酸化炭素濃度の上昇を抑えるカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする)を実現する方針を打ち出した。

 50年、温暖化ガス排出実質ゼロを実現するには二酸化炭素を出さない水素の活用が不可欠だ。発電や燃料電池自動車(FCV)向け燃料として水素の利用を増やすには、コストを引き下げなければならない。

 トヨタ自動車、岩谷産業など9社は20年12月7日、水素分野におけるグローバルな連携や水素サプライチェーンの形成を推進する新たな団体「水素バリューチェーン推進協議会(JH2A)」を設立した。

 JH2Aは水素の需要創出や製造費のコスト削減、事業者への資金提供といった問題解決のための業界横断的な団体だ。トヨタ、岩谷産業、ENEOS、川崎重工業、関西電力、神戸製鋼所、東芝、三井住友フィナンシャルグループ、三井物産が理事会員として設立に参画。会員企業としてパナソニックや三井不動産など88社(20年12月7日現在)が集まった。岩谷産業の牧野明次会長、トヨタの内山田竹志会長、三井住友FGの國部毅会長が共同代表者を務める。

 12月7日の設立イベントで牧野氏は、1基当たり約5億円かかる水素ステーションの建設費について「規制緩和で価格を抑えることができると考える。都心部のガソリンスタンドと併用できれば早期の普及も可能だ」と展望を語った。

 水素はコストが高く実用化には課題がある。FCVなど自動車分野で技術開発が進むが、本格的な普及には水素ステーションの建設が重要になる。水素販売量で国内トップシェアを持つ岩谷産業が、水素社会の実現に向けて“アクセル役”として登場してきたのは、こうした背景からだ。

FCV向けの水素ステーションを設置

 国内最大手のLPガス事業者である岩谷産業はヘリウムなどの産業ガス、電池関連部材のほか、生活用品ではカセットこんろなど事業領域が広い。なかでも、特に注目されているのが水素関連事業だ。FCV向けの水素充填ステーションの設置に取り組んできた。

 15年4月13日、日本初となるショールーム併設型「イワタニ水素ステーション 芝公園」(東京・港区)がオープンした。「TOYOTA MIRAIショールーム」を併設し、前年に発売されたFCV「MIRAI(ミライ)」を展示した。東京オリンピック・パラリンピックを契機として、水素社会への進展が期待される東京の中心から、その実現に向けた情報を発信し、普及・啓発にも活用できる施設という位置付けである。純水素型燃料電池による電力供給の実証試験を行うなど、今後の水素ステーションのモデルとしての役割を担う。

 東京タワーの南側に位置し、1962年に創業したトヨタ東京カローラ発祥の地としてトヨタグループにとっても歴史的な場所にイワタニ水素ステーションは立地している。

 トヨタは2014年、ミライを発売した。ミライの20年9月末までの世界販売台数は1万1000台。しかし、19年度の日本でのFCVの販売はトヨタを含め約700台にすぎず、EV(電気自自動車)の約2万台とは比較にならない。FCVの普及のカギを握るのが水素を充填する水素ステーションなのである。

 岩谷産業は14年7月、兵庫県尼崎市に国内第1号の水素ステーションを設置した。以後、東京、名古屋、大阪、福岡の4大都市圏を中心に水素ステーションを設置。21年3月末までに53カ所を設置する計画でトヨタと組んだ。

 岩谷産業はトヨタと提携し、米国カリフォルニア州で4カ所の水素ステーションを運営している。独産業ガス大手メッサーグループがもつ水素ステーションを19年4月に買い取り、日本勢として初めて水素ステーション運営に参入した。数年後に20カ所程度に広げる予定だ。

 トヨタはミライだけでなく大型トラックでもFCVで米国に進出する計画で、水素インフラの充実が米国でもFCV普及のカギを握る。岩谷産業は米国で液化水素の製造に参入することも考えている。

水素ステーションはどこまで普及するのか

 国内の水素ステーションはENEOSが44カ所でトップだったが、岩谷産業は21年3月末には53カ所に増やし、トップに躍り出る。今後、既存のガソリンスタンドに働きかけて水素ステーションを併設していく。岩谷産業の間島寛社長は「東洋経済オンライン」(20年12月30日付)で、水素ステーションについて語っている。

<最も利用台数が多いイワタニ水素ステーション芝公園(東京・港区)では、1日に30台弱の利用がある。充填する水素ガス量が多いのはイワタニ水素ステーション東京有明(東京・江東区)だ。東京都の都営バスが燃料電池バスを導入しており、有明ステーションを利用している。こうした利用台数が増えてきたところについては、(採算的に)運営ができるところまで見えてきた>

 だが地方では、FCVは走っていないし、水素ステーションもない。勝負はこれからだ。既存のガソリンスタンドが、すんなり水素ステーションを導入するのだろうか、という根本的な疑問もある。水素社会構築の“アクセル役”に躍り出た岩谷産業の前途に立ち塞がる壁は高くて険しい。

(文=編集部)

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