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三越伊勢丹、Tポイント廃止の裏に社内クーデター…電撃解任の前社長の路線を全面撤回

文=編集部
三越伊勢丹、Tポイント廃止の裏に社内クーデター…電撃解任の前社長の路線を全面撤回の画像1日本橋三越本店(撮影=編集部)

 三越伊勢丹ホールディングス(HD)は8月10日、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が運営するTポイントの付与・利用サービスを、2018年3月末をめどに終了すると発表した。自社のエムアイカードとエムアイポイントに一本化する。

 Tポイントによる顧客データの有効活用を目的に三越伊勢丹HDとCCCが共同で設立した、三越伊勢丹Tマーケティングの提携契約も解消する。

 Tポイントのサービスを開始したのは16年5月だから、2年に満たない短命でサービスを終えることになる。

 三越伊勢丹HDでは、異例の社長退任劇があった。3月4日、伊勢丹新宿本店近くの本社の一室で、大西洋社長は石塚邦夫会長から「構造改革の混乱の責任をとって、辞めてもらいたい」と辞表提出を求められた。

 三越伊勢丹HDは同7日、本社で社外取締役を中心とする指名報酬委員会を開き、大西氏の辞任と杉江俊彦取締役専務執行役員の社長就任を決めた。その後の取締役会で正式に、この人事案を決議した。大西氏は辞任というかたちをとってはいるが、事実上の解任だ。店舗閉鎖をめぐる、旧三越と旧伊勢丹の対立という皮相的な見方もあったが、真相は“反大西派”によるクーデターだった。

 ミスター百貨店と呼ばれた大西氏の肝入りでTポイントカードは導入された。

 三越伊勢丹HDが発行する会員カード、エムアイカードの加入者は280万人。年齢層が高く、高価格帯の商品を購入するケースが多い。5500万人の会員を持つCCCのTカードはファミリーマートなどで日々の買い物で使うことが多く、会員層に違いがある。

 三越伊勢丹HDは来店客の高齢化が進むなか、Tポイントの導入で若者など顧客層の拡大を狙った。一方、CCCには会員増のメリットがあった。こうした経緯から、大手百貨店として初めてTポイントが使えるようになった。

 導入以後、三越伊勢丹HDの各百貨店は、店頭でTカードとエムアイカードを併用していた。だが、両カードの併用は消費者にわかりにくく、連携はうまく進んでいなかった。

 実は、Tカードの導入について、三越伊勢丹HD内で異論があった。Tカードは百貨店の高級路線にはそぐわないという理由からだ。だが、社内の反対を押し切り、大西氏は強引に導入を決めたといわれている。

 大西氏の失脚により、路線の見直しが行われた。そのなかで真っ先に槍玉に上がったのが、Tポイントだった。

 杉江氏はカード事業を中期成長戦略の柱のひとつに位置付けている。来年春からはエムアイカードとVISAと連携したプラチナカード、百貨店以外のチャネルで発行するクレジットカードも加え、利用できる店舗をグループ外に拡大する。

見直し候補の伊勢丹松戸店は存続へ

 大西氏の不用意な発言が、“反大西派”がクーデターを仕掛けるきっかけになった。はっきりいえば失言だ。

 16年11月8日に開かれた決算発表の席上でのこと。苦戦する地方・郊外店についての改善策を問われた大西氏は、伊勢丹松戸店(千葉県松戸市)、伊勢丹府中店(東京都府中市)、広島三越(広島県広島市)、松山三越(愛媛県松山市)の4店を挙げ、百貨店部分の縮小やテナントの誘致など、抜本策を講ずる方針を示した。

 だが、この時点で4店の改革は、取締役会で正式に決定していなかった。発表を受けて、三越伊勢丹HDの店舗リストラが大々的に報じられ、大問題になった。決算の数字が良くなかったので、大西氏は建て直しへの意欲を見せるために店舗改革をぶち上げたのかもしれないが、これは明らかにフライングだった。そのため、役員たちは驚き、労働組合は激怒した。

 社長が代わり、大西氏が打ち出した店舗の見直しのうち、伊勢丹松戸店の存続が決まった。千葉県松戸市が8月22日、18年10月から9年9カ月間、同店4階フロアを賃貸借する契約を締結し、テナント料として約21億円を支出する方針を明らかにしたと報じられた。松戸市は「今後10年以上は撤退しない」と見通しを明らかにした。

 伊勢丹松戸店は1974年4月に開業し、03年3月期に299億円あった売上高は17年同期には181億円に落ち込んでいた。17年4月~8月までの累計売上高は前年同期比2.9%減と、回復のメドは立っていない。

 地元の要望を受けて伊勢丹松戸店の存続が決まったかたちだ。杉江氏は、不採算店の閉鎖を決断できず“負の遺産”を存続させることになった。大西路線を覆すための揺り戻しは今後も続く。

首都圏基幹3店はインバウンド需要が回復

 そんな三越伊勢丹HDにとって、久々に明るいニュースが入った。8月の速報によると、国内グループ百貨店の合計売上高は前年同月期比2.9%増となった。

 首都圏の基幹3店(伊勢丹新宿本店、日本橋三越本店、銀座三越)や、札幌(札幌丸井三越)、福岡(岩田屋三越)の大都市圏の店舗が売り上げを牽引した。伊勢丹新宿本店は9.3%増で、4~8月の累計は3.8%増。日本橋三越本店は5.4%増、累計は2.4%増。銀座三越は17.9%増、累計で6.8%増だった。

 銀座三越はかつて、中国人観光客が殺到して爆発的な売上増を記録。“爆買い”の聖地といわれた。それが昨年4月、中国政府が海外で購入した高級品を中国に持ち込む際の関税を引き上げたことから、店頭から中国人客が潮が引くように消え、閑古鳥が鳴いた。

 その銀座三越に訪日客が戻ってきた。訪日客の需要は高級ブランドから、手頃な化粧品、秋物の衣料品にまで広がりを見せ、売り上げは驚異的な伸びを記録した。

 前年、大きく実績を落とした基幹店のインバウンド売り上げが回復し、三越伊勢丹HDの業績回復に寄与した。

 首都圏3店はインバウンド需要が回復したが、郊外店・地方店は依然として水面下に沈んだままだ。郊外店・地方店15店のうち、4~8月の累計が前年同期を上回ってプラス成長した店舗は、札幌丸井三越、静岡伊勢丹(静岡市)、岩田屋三越の3店にとどまる。プラスとはいえ、静岡伊勢丹は前年同期比1.9%増にすぎない。

 今、百貨店業界は厳しい環境に置かれている。16年の全国百貨店売り上げは5兆9780億円と、1980年以来36年ぶりに6兆円の大台を割った(日本百貨店協会調べ)。インバウンドの恩恵を受けない地方店の経営は厳しさを増しており、不採算店を切り離す店舗リストラは避けて通れない。

 杉江氏は郊外店・地方店をどのように改革しようとしているのか、まだ見えてこない。
(文=編集部)

BusinessJournal編集部

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