1月27日、河野太郎ワクチン担当相は「65歳以上の高齢者(約3600万人)へのワクチン接種は、4月1日から始め6月第3週までに終了する」という見通しを記者団に語った。ということは、65歳未満の人への接種は7月以降になるということだ。
海外でも、ワクチン接種がなかなか進んでいないようなので、おそらく各国とも6月中には全国民に接種できないだろう。つまり、東京オリンピック・パラリンピック(以下、東京五輪)が開催される予定の今年7月は、日本も含め世界中がワクチン接種の真っ最中ということになる。
世界中がコロナと戦っている時期に、世界中から人を集め「コロナに打ち勝った証」として東京五輪が開催できるのだろうか。五輪は、スポーツの祭典ともいわれるが、要するにカーニバル(お祭り)にすぎない。世界中が一人でも多くの人に、できるだけ早くワクチンを接種しようと躍起になっている7月に、日本では「コロナに勝った証として、世界中から人を集め大騒ぎをしている」のだ。それを「微笑ましい」と思う人よりも「何を馬鹿騒ぎをしている」と思う人のほうが多いのではないだろうか。
しかも、あとになってから「東京五輪がコロナを世界中に拡散させた」ということにでもなると、「なぜ中止しなかったのか、延期しなかったのか」という叫びが世界中から湧きあがり、日本の信用は失墜してしまうだろう。
“Go To 東京”で浮かれている場合ではない
おそらく菅義偉首相は、東京五輪期間中とその前後には、少しでも多くの人を東京に集めようと、Go Toトラベルを大々的に実施するだろう。そうなると東京には、日本全国あるいは世界中から数十万人規模で人が集まってくる。ほかにも、選手団やボランティアの人たちも集まる。ボランティアだけで約11万人(大会ボランティア8万人、都市ボランティア3万人)、さらに、医療従事者も東京五輪のために1万人も集めるという。
しかも、医療従事者の人たちを除いて、集まってきた人たちの多くはワクチン接種を終えていないはずだ。いくら夏場とはいえ、終息に近づいていたとしても、ワクチンを接種していない人たちを東京に大集合させることは大丈夫なのだろうか。
一方、その時、全国で65歳未満の人たちへのワクチン接種が始まっている。東京の街なかは、日本も含め世界中から集まった人に加え、ワクチン接種の人たちでごった返すのではないだろうか。
そもそも、もし終息間近だったとしても、日本中がワクチン接種で大混乱しているかもしれない時期に、東京五輪の感染対策のために、1万人もの医療従事者の人たちを東京に集めていいものだろうか。
世界中からワクチン接種が終わっていない人たちが大集合する姿を見て、世界中の人たちは「スポーツの祭典を盛り上げてくれてありがとう」と感謝するだろうか。
いくら無観客だろうが、日本人限定だろうが、東京五輪開催中の7月は、世界中がワクチン接種を続けながらコロナと必死に戦っているはずだ。本当にコロナに打ち勝った証として祭典をしたいのなら、世界中から医療従事者の人たちを集めて、感謝の祭典を開いたほうが、世界中の人たちが喜んでくれるだろう。
無観客だろうが日本人限定だろうが、定員の半分の人数にしようが、いずれにしてもコロナに感染することが怖いから取る措置だ。コロナに打ち勝ったわけではなく、コロナにおびえている証拠だ。とてもコロナに打ち勝った証とはいえない。菅首相は、7月23日の開会式に、世界中の人々に向けて「コロナに打ち勝った証として東京五輪を開催します」と自信をもって宣言できるのだろうか。
東京五輪は、中止か延期するしかない。
(文=垣田達哉/消費者問題研究所代表)