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収入激減のタクシー業界から“逃げ出す”運転手が続出…東京五輪中止なら年収300万円台に?

文=前川佳樹/ライター兼タクシードライバー
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「gettyimages」より

 新型コロナウイルス蔓延により、日本経済への影響は計り知れない事態となっている。特に観光、宿泊、運輸交通、外食、イベントといった、人々が外出しない限り利用されないサービスが致命的な打撃を受けているのは既報の通りだ。

 タクシードライバーの給与は売り上げに対する完全歩合がほとんどで、乗客がいなければそのまま給与に跳ね返る。いくら走っても客を乗せられなければ収入に結びつかず、ついには最低賃金の支給にとどまる。

 私は現役タクシードライバーとして、東京都心で乗務している。コロナ前はアベノミクスによる大企業の好業績と株高に支えられ、日中は仕事回りや富裕層の移動需要、また深夜はサラリーマンなどの飲み会需要に加え、企業の接待を受けた長距離客も存在し、労働時間に対する収入はかなり恵まれていた。

 タクシードライバーは、資格や能力のない中高年であっても比較的なりやすい職業である。東京都心であれば平均年収は450万円前後と悪くない。年金受給者や独身者など、お金をあまり必要としない人がのんびり働くこともあれば、家庭持ちで稼がなければならないドライバーの場合は平均年収500~550万円ほども可能だ。

 しかし、この安定した収入も、コロナ禍によってことごとく破壊されてしまう。外出自粛要請と同時にタクシー利用者がかつてないレベルで減少し、4月の東京のタクシーの合計売り上げは、業界紙「東京交通新聞」によると前年同月比で約35%。歩合給で成り立つタクシードライバーの収入に直接跳ね返ることになった。コロナショックに襲われた多くのドライバーが、最低賃金レベルの収入に落ち込んでしまったのである。

売り上げ3分の1に激減で手取り10万円台に

 私は4月上旬のタクシー乗務において、この数字を実感した。

 以前は、都心を走っていれば早くて5分、遅くても20分で乗客を見つけられたが、外出自粛要請下では、とにかく見つからない。あきらめて駅やホテルで客待ちをしても、1時間以上かかることもままあった。

 コロナ前は朝8時から翌午前4時まで走って6~7万円の売り上げがあったが、同じ時間を走っても2~3万円にまで落ち込んだ。しかも、新型コロナに感染するリスクも加わったので、労働内容に対してまったく割に合わない状況であった。

 一般のタクシードライバーは朝~翌明け前と1日通し勤務(昼~翌昼頃もあり)を月12回乗務する。仮に1回平均6万円の売り上げで歩合率が東京のタクシー会社平均の6割とすると、1回あたり3万6000円、月12日で総支給額は約43万円となる。しかし、これが約3分の1になれば、計算上は15万円弱になってしまう(実際は最低賃金との関係でもう少し多い金額になる)。

 さすがにこの状況はタクシー業界としても見過ごせなかったようで、極度の需要低下と新型コロナへの感染リスクに危機感を持った都内大手タクシー会社を中心に、4月中旬以降、ドライバーを休業させ、タクシー台数も半減させて、需給バランスを改善する取り組みが行われた。

 同時に、休業したドライバーへは国の雇用調整助成金を活用しての賃金保証がなされた。結果、4月中旬から5月中旬まで都心のタクシー需給バランスは多少改善し、出勤した乗務員は乗客を見つけられない絶望感から解放された。休業した乗務員は、ウイルス感染のリスクと乗客が少ない状況での労働を回避することができた。

 しかし、タクシー台数が2分の1になっても乗客数は約3分の1のままなので、トータルで3分の2ほどの売り上げとなり、厳しいことには変わりはなかった。5月下旬に入ると、緊急事態宣言解除から多少の需要回復が見られた。ただし、6月中旬以降は多くのタクシー会社が休業明けとなり、街のタクシー台数が一気に増える見通しだ。

 こうなると、再び供給過多となったタクシーにより、多くのドライバーが売り上げ減に苦しむ状況となるのは間違いない。特に深夜ともなると、相変わらずの自粛ムードから需給バランスは大きく崩れたままだ。乗客を探すのも一苦労なので、疲労度も以前より圧倒的に高く、その割に賃金は減少する状況が継続するだろう。

休業手当の金額は会社によって違う現実

 東京や大阪などの大都市圏の場合、一家の大黒柱として家族を養うドライバーも多い。大都市圏のタクシー会社は、倒産やリストラなどで職を失った労働者の再就職先として、長らく雇用の受け皿となってきた歴史があるからだ。

 そんななか、月給換算で40万円以上の総支給額が、売り上げ激減と休業により20~25万円に落ち込んでしまった。しかし、厚生年金や社会保険、住民税などは昨年度の収入で決定されるので、控除される金額はさほど変わらない。

 今まで総支給額40万円から10万円控除されて手取り月収30万円を得ていたドライバーの総支給額が20万円に減収したとすると、約9万円控除されて手取り月収が11万円前後となり、手取り20万円近い減収となるケースが現実に起きている。

 国からの雇用調整助成金は、あくまで会社に支払われる。ドライバーに支給される休業手当は最低でも過去の平均賃金の6割とされているが、実際の金額は会社によってまちまちであり、休業手当を出し渋る会社に所属するドライバーの場合、手取り給与が1桁に落ち込んだケースも実際にあった。

 手取り1桁から10万円台の収入では、家庭を持ち、高い生活コストに対応すべくがんばっていても、住宅ローンや家賃を払ってしまうといくらも残らない。緊急小口資金などの借り入れでなんとかしのいでいるドライバーも多いが、法人ドライバーに対する給付金は全国民対象の10万円のみとなり、困窮度合いには見合わない。今後もコロナ禍が継続すれば、焼け石に水のレベルだろう。

休業中の副業を認めない大手タクシー会社

 苦境にあえぐドライバーに対し、会社は休業補償こそするものの、社員の生活を守ろうという意識は残念ながら低い。なぜなら、大手のタクシー会社のほとんどが、このような事態でも休業中の副業を認めなかったからだ。

 そんななか、東京のタクシー会社・日の丸リムジンが特例で休業中の副業を認めると同時に、広島の物流会社・ムロオと業務提携し、休業ドライバーの希望者に倉庫作業や物流ドライバーとしての仕事を斡旋するという取り組みを行った。

 これは社員の手取り収入をなんとか確保しようという乗務員思いの姿勢が感じられる事例であるが、こういった取り組みをする会社はわずかである。いくつかの会社は、従来タクシー会社に認められなかった「フードデリバリー」を国土交通省から特別に認可を得て行うなど、生き残り策を模索しているが、乗務員の収入回復につながるほどの仕事量には至っていない。

 会社としては、ドライバーを働かせても営業収入が半分にしかならないなら、「雇用調整助成金を受給したほうが売り上げ面でも有利になる」との判断に基づき、休業させた感もある。ドライバーの生活を守るという意識は、残念ながら薄いと感じざるを得ない。

 それでは生活が破綻してしまうと、隠れて副業するドライバーも続出したわけだが、税金の処理などで発覚すれば懲戒処分もあり得る。また、禁止されている副業が原因で新型コロナに感染でもしたら、これも重い懲戒となり得る事案だ。よって、多くのドライバーは手取り10万円台という低収入で数カ月間を過ごさざるを得なくなったのである。

 国の宝でもある子どもを育て、なんとか大学まで卒業させようと一所懸命に働く中年ドライバーが多いタクシー業界。がんばれば高年収を得ることも可能であり、国の税収に貢献してきた面もある。しかしながら、現実は残酷で、国の施策による外出自粛要請が原因で大幅な減収になったというのに、それに見合った補助を国から受けているとはいいがたい。

 今後は乗客の戻り次第で多少の希望もあるが、コロナ感染の第2波が来る可能性もあり、先は見通せない。しかも、テレワークの加速で日中の仕事回りのタクシー利用は以前ほど期待できず、訪日外国人の利用も当面はない。稼ぎ頭である深夜の中長距離利用の乗客も、自粛ムードが続く限り、見通しは暗い。

東京五輪中止ならタクシー業界も売上半減の危機

 東京オリンピックが中止となり、日本経済に本格的な危機が訪れるようなことがあれば、都内のタクシードライバーの年収は良くて3分の2、悪ければ半減する可能性もある。年収600万円ほど稼いでいた家族持ちのタクシードライバーも、300万円台に転落するかもしれない。

 これを予想して、転職するドライバーも増えている。大手配送会社のトラックドライバーによれば、「業務用スーパーの食料品や病院・福祉施設への医療用品、そして、アマゾンを中心としたネット通販の配送が急増している」とのことだ。宅配ドライバーに転職すれば、コロナ禍が継続したとしても収入は安定するだろう。

 しかし、かなりの肉体労働でもある。若ければ対応できるだろうが、一日中座ってきた中高年のタクシードライバーが簡単にできる仕事ではない。肉体的につらい労働をするぐらいなら、と絶望感のなかで仕事をしているドライバーも少なくない。

 売り上げが低いのはまだいいほうで、現況が続けば解雇される可能性すらある。東京のタクシー会社・ロイヤルリムジンが600人を解雇したことが大きなニュースになったが(現在は紆余曲折あって事業再開の手続き中)、売り上げが回復しなければ経営危機から廃業するタクシー会社も出てくるだろう。

 ロイヤルリムジンの場合、一般的なタクシー車両の約2倍もする高級車を用いて、インバウンド需要による空港送迎や観光タクシー、深夜の長距離需要にこたえる営業スタイルによる高コスト体質が災いし、事業の継続は難しいと判断して一斉解雇という選択をした。今後、恐慌ともなれば、低コスト体質の会社であっても、体力のない中小のタクシー会社は淘汰されていくだろう。

 そうなれば、残留を選択したドライバーも、やはり他業界への転職は避けられない。乗客が激減したなか、ほとんどのタクシー会社は新規雇用する余裕がないため、再びタクシードライバーとして転職することは難しいからだ。大幅な給与減を受け入れたとしても、今度は失業の恐怖におびえるだろう。

 労働の苦労が増大した上に収入は激減し、失業の恐怖にもさらされているタクシードライバーに救いはないのか。私もタクシードライバーとして悩ましいところである。今は国による「手取り収入が激減した世帯への支援」を期待したいが、財源に限りがあるなかでは難しいだろう。私自身も収入が激減したため、娯楽を制限しただけでは足りず、貯金を切り崩す生活となっている。コロナ第2波に襲われでもしたら、今後やりたいと思っていたことをことごとくあきらめ、とりあえず生きるだけの生活になりそうである。

 最後に、お客様へ切なるお願いで締めくくりたい。タクシードライバーは、密室のなかで1対1の接客となるためか、一定数存在するクレーマーの対応に日々頭を悩ませている。我々の接客や運転に問題があるケースも多いだろうが、そうでない場合は、タクシー利用の際、厳しい現実に直面しているドライバーを少しでも温かい目で見守っていただければ幸いである。

(文=前川佳樹/ライター兼タクシードライバー)

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