ペット保険が空前の活況…ペットの健診サービスや遺伝子検査に注力するアニコム損保の狙い
コロナ下での2回目の緊急事態宣言も3月7日まで延長することが決定しました。1回目の宣言時よりも外出制限などは緩やかですが、テレワーク率7割の推奨や在宅率の上昇などで、自宅で過ごす時間が長くなっている人が多くなっていることは間違いありません。
「家で過ごす人が増える」ことで、ネット生保やダイレクト系損保を選択する人が増加していることは、これまでの2回のこの連載を通じて紹介してきました。実は、非対面系の生保・損保商品以外にも、コロナ下を追い風に伸びている保険があります。
それは、ペット保険です。コロナ禍でペット保険の販売が増加するというのは、意外に思う人が多いかもしれません。実は、その背景には、ペットとして犬や猫を新たに飼育する人が増えていることがあります。
一人暮らしや高齢者の人たちはコロナ禍で外出を控え、自宅にいることが多くなり、さびしさを紛らわすためにペットを飼おうと思うことは容易に想像できます。実際、1回目の緊急事態宣言下では、独立した店舗形態のペットショップは盛況だったようです(ショッピングセンター内にあるペットショップはセンター閉鎖により営業休止だった)。
ペットショップで販売されている犬や猫は1歳未満の子犬・子猫がほとんどで、ペットを飼う際にあわせてペット保険の加入を勧められるパターンが多いです。ペットショップがペット保険会社の代理店になっており、ペット保険を販売すれば、ショップに代理店手数料が入るというカラクリです。
日本でペット保険を販売する会社は十数社あり、損害保険会社と少額短期保険事業者が扱っています。ペットは保険のカテゴリーでは「物」の扱いとなるため、損害保険商品と位置づけられています。
最大手はアニコム損害保険で、東証一部上場のアニコムホールディングス傘下にあり、2020年9月末までの上半期時点で、新規契約件数は約10.7万件で、半期としては過去最高になっています。2番手のアイペット損害保険も上半期の新規契約件数は過去最高であり、3番手のペット&ファミリー損害保険との3社で、ペット保険市場の約70%のシェアを占めています。
ペット保険の補償内容とは?
では、ペット保険では、ペットに関するどのようなリスクが補償されるのでしょうか。多くの商品は人の「医療保険」と同じように、ペットが病気になったりケガをしたりした際の通院や入院、手術などでかかった費用をカバーする保険です。
ペットの場合は入院よりも通院のケースが多く、人の医療保険と比べて、通院でかかった費用を手厚く補償するのが大きな特徴です。
人との大きな違いは、もうひとつあります。実は、ペットの治療費は「自由診療」といって、人間の病気の治療のように健康保険などが適用されません。そのため、治療費は全額飼い主の自己負担になり、1回の通院で1万円、2万円になることも少なくありません。みなさんも、歯科医院などで全額自己負担の治療を受けることがあると思いますが、そうしたイメージです。
たとえば、アニコム損保のペット保険は、「どうぶつ健保 ふぁみりぃ」(新規加入対象年齢:7歳11カ月まで)、「どうぶつ健保 しにあ」(同・8歳以上で上限なし)、「どうぶつ健保 ぷち」(同・7歳11カ月まで)の3種類があります。
このうち「ふぁみりぃ」で補償内容を説明すると、通院・入院の支払限度額は1日あたり1万4000円で、利用できる日数は年間20日まで(70%プランの場合)、手術は1日あたり最高14万円までで年間2回までの利用回数となっています。高齢ペット向けの「しにあ」には通院補償はありませんが、入院・手術の補償範囲は「ふぁみりぃ」と同じです。この「しにあ」という商品は、新規加入年齢の上限を撤廃した業界初のペット保険で、人間と同様に高齢化が進むペットに対応した商品となっています。
一方、アイペット損害保険は2商品があり、「うちの子」は通院は1日あたり1万2000円(年間22日まで)、入院1日あたり3万円(年間22日まで)、手術1回あたり15万円(年間2回まで)が限度額(70%プラン)となっており、「うちの子ライト」は通院がつかない保険料が低廉なプランとなっています。
両社とも、動物病院での窓口精算が可能な仕組みを導入しており、実際にかかった費用と保険金額との差額を窓口で支払えばいい体制をとっています。つまり、契約者は後日、ペット保険会社への保険金の請求手続きが不要になるのです。これは、大変利便性が高いサービスです。ただし、利用できる動物病院が限られている上、条件によっては利用できないこともあります。
ペットの健診サービスや遺伝子検査も
最近のペット保険は驚くべき進化を遂げています。最大手のアニコム損保は「予防型保険会社」と銘打ち、万が一の補償提供だけでなく、その万が一が起こらない、つまり「病気にならない」ように犬や猫の疾病予防の取り組みに力を入れています。
そのひとつとして、保険商品に付帯しているのが「ペットの健診サービス」。ペットの腸内フローラを測定して疾病の早期発見、治療につなげる「どうぶつ健活」の利用者はぐんぐん伸びています。腸内フローラの状態がペットの疾病の発生率を左右するデータがあればこそ提供できているサービスで、アニコムはグループ内にこうした予防につながる研究事業を行う子会社を持っています。
もうひとつはペットの遺伝子検査です。人間では、遺伝子検査をもとに保険の引き受けの可否を判断することは倫理上、問題がありますが、ペットの世界では、遺伝子検査による疾病確率の研究などが進んでいます。アニコムでは、適切なブリーディングなどをペットショップやブリーダーなどにアドバイスすることで、将来的には遺伝病の撲滅を目指していく考えです。
こうした取り組みは飼い主のメリットにつながるだけでなく、保険会社としても、将来的には保険金の支払い削減につながることになります。
日本ではペット保険の普及率は10%にも達していませんが、少子高齢化が進む中、15歳未満の子どもの数よりもペットとして飼われている犬や猫の頭数の方が多いのです。今後も、ペット保険の普及率は右肩上がりで上昇していくことは間違いありません。
(文=鈴木純男/金融ジャーナリスト)