スズキの鈴木修会長兼社長
軽自動車大手スズキの鈴木修会長兼社長は5月9日、2013年3月期決算発表の記者会見で、現在の為替状況について聞かれてこう語った。
スズキの13年3月期決算は好業績だった。売上高は前年同期比2.6%増の2兆5783億円、本業の儲けを示す営業利益は21.2%増の1446億円だった。当期純利益は49.2%増の804億円で過去最高となった。
営業利益は前年同期比で253億円の増額。その内訳は、販売増やコスト削減などで705億円増益、経費の増加と為替の影響などで452億円の減益で、差し引き253億円の増益となった。多くの自動車メーカーの業績が円安の影響で増益となる中で、スズキは為替の影響分だけで69億円の減益となったのだ。
その理由はスズキの事業構造にある。インド事業が強く、最近はタイやインドネシアの事業を拡大させるなど新興国ビジネスに強い。スズキは米国事業からは撤退している。この結果、外貨売上高はドルよりも新興国通貨のほうが多い。為替はドルに対しては円安だが、「インドのルピーやインドネシアのルピアに対しては円高であったため、為替でマイナスとなった」(鈴木修氏)という。グローバルにビジネスを展開する企業にとって、通貨はドルだけではないのだ。
スズキは14年3月期に設備投資額を前期から1007億円上積みして2700億円に引き上げるが、そのほとんどを海外での設備投資増強に費やす。鈴木会長は「インドネシアで鋳物やアルミなど素材の生産から現地で対応するのに投資する」と説明した。
グローバルにサプライチェーンマネジメントを構築している企業にとって、ドルに対して円安だからすべてハッピーとは限らないのである。企業経営は複眼的に見なければその実態を把握できない。
製造業の中では、海外拠点で生産した部品を日本に輸入しているケースもあり、この場合は円安がデメリットになる。例えば、シャープのタイ工場は同社最大の白物家電工場で、タイから世界100カ国に輸出している。日本で売られているシャープ製の電子レンジもタイ工場での生産だ。バーツ高円安の状況では収益性が悪化する。
物事を深く考えない円安絶賛の風潮は、日本企業の競争力を考えるうえで非常に危険である。スズキの決算はそうしたことを示唆している。
(文=井上久男/ジャーナリスト)