Spotify、アップルミュージック、LINE MUSIC、Google Play Musicなど、多くの定額制音楽配信サービスが提供されている。これらのサービスの大半は月額1000円前後の課金で、2000~4000万曲が配信されている。それぞれの配信サービスは自社の強みを生かし、アーティストプランを用意したり、歌詞の表示機能をつけたり、一度聴いた曲に近い曲を推薦するレコメンド機能を充実させたりと、まさに百花繚乱。どれを選べば良いか迷ってしまうという状況だ。
そのようななかで、Amazon Prime Musicは提供する楽曲数も約100万曲、料金は税込で年額3900円、月額にすると325円だ。Amazonビデオや商品の一部送料無料サービスなどを含むAmazonプライムサービスに加入していれば、追加料金なしでAmazon Prime Musicを利用できるため、ユーザーとしてはこの金額で音楽を楽しむことができる。
潜在的&顕在的なニーズに応える
私も音楽が好きなので、Amazon Prime Musicを楽しんでいる。なかでも重宝しているのが、「お客様におすすめのプライムプレイリスト」だ。「晴れた朝に聞きたい洋楽」「テラスで聞きたいポップス」「眠りのためのヒーリング・ミュージック」など、シチュエーションに合わせたミュージックリストが数百以上も用意されている。
音楽配信サービス普及前までの人々の音楽の聴き方は、手持ちのCDのなかから気分に合わせて選ぶか、音楽プレイヤーに入っている楽曲を聴く、または自分でリストを作成しなければならなかった。もちろん、音楽中心のラジオを聴くという手もあるが、Amazon Prime Musicの良さは、これまでの購買履歴から推測して各ユーザの好みに近いプレイリストをつくってくれることと、「リラックスしたい時に」とか「気分を上げたい時」などという、状況や心理のシチュエーションに合わせてリストを提供している点にある。
私の場合もそうなのだが、音楽を純粋に楽しむだけでなく、音楽により癒されたり気分を上げたりすることを求めている。その場合、音楽そのものは私にとって機能的な価値で、リストにある音楽を聴くことでモチベーションを上げることが、情緒的な価値でありベネフィットなのだ。
多くの音楽ファンは、自分の好みのアーティストがいて、アルバムや楽曲を購入し楽しんでいる。一方で、自分が今気づいていないけれど、潜在的に好きになる可能性の高いアーティストや楽曲に触れた時には、また別の喜びがある。このような気づきを提供できるのが、シチュエーションごとのプレイリストであろう。
顧客の潜在的なニーズに応えるのみでなく、顕在的なニーズやウォンツを充足することができるサービスだといえるであろう。
Amazonとしては、音楽だけでなく、ビデオやKindle Unlimitedなどのプライムサービスでのコンテンツを充実させることで、顧客が自社プラットフォームに滞在する時間が多ければ多いほど、顧客の購買行動による顧客ごとの志向をビッグデータとして分析でき、ひいては、売上増につなぐことも可能になるのだ。
IoT時代に企業は何をすべきか?
では、企業はAmazon Prime Musicから何を学び、自社のビジネスにどう生かしていけば良いのだろうか?
AI(人工知能)やIoTが進化していくなかで、消費者が何かを購買する時の利便性もどんどん上がり、消費者側が欲するレベルも同様に天井知らずで上がるのだ。企業側としては、顧客にサービスを提供しその質を改善し続けても、顧客の欲求は量的にも質的にも青天井で、顧客は満足することは決してない。利便性が上がれば上がるほど、それまでの利便性がコモディティ化し、顧客にとっては当たり前のものになってしまうのだ。
こうなると、顧客はいっそうわがままになる。プライムミュージックでいえば、アルバムも欲しいが楽曲ごとにも買いたい。しかし、同時に「あなたが私にオススメしてくれるものも欲しい」となる。
この志向の傾向は、どの業界にも当てはまるようになるだろう。旅行業界でいえば、「パッケージ旅行も、格安航空券も、ホテル料金も、オプションツアーもすべての情報が欲しいし、私へのオススメプランも欲しい」といった具合であろう。
顧客満足は提供して当たり前、それを超える顧客歓喜を提供できないと、生き残れない時代になりつつある。
適者として業界で生存できるようになるのは、顧客の傾向を把握することでニーズとウォンツを明確にし、自社独自のサービスによる「顧客が感じるベネフィット」を提供することから始めるべきなのだ。
(文=理央 周/マーケティングアイズ代表取締役、売れる仕組み研究所所長)