非接触での会計手段が求められて普及が進み、もはや珍しい存在ではなくなったセルフレジ。そのなかでも「ユニクロ」や「GU」の置くだけで商品を読み取って会計することができる、RFID(Radio Frequency Identification)のタグを採用したセルフレジは登場当時、大いに注目を集めた。
そんなユニクロのセルフレジに関して、SNSに投稿されたある体験談が話題となった。それは、購入しようとした衣服のポケットに別の商品のRFIDタグが紛れ込んでいたというものだ。
RFIDは電波によってタグを読み取れるだけでなく、タグへの書き込みも可能としており、レジを通した商品に書き込みを行うことで、未会計の商品を識別して盗難を防いでいる。つまり、会計前の商品のRFIDタグを取り外し、別の商品に紛れ込ませるという万引き犯罪の手口があり、SNS投稿者はそのとばっちりを受けた可能性が高そうだ。
すでに話題となった投稿は削除されているが、これに端を発して似たような体験談が次々と投稿され、RFIDタグの仕組みを悪用した万引きの存在は一気に周知されることとなった。被害に遭った人々が多いということは、この手の万引きは増加傾向にあると推測されるが、実際のところはどうなのだろうか。
そこで、企業の危機管理のトータルサポートを行うエス・ピー・ネットワークの総合研究部上席研究員である伊藤岳洋氏に、RFIDタグなどのセルフレジの仕組みを悪用した犯罪の現状や、その対策について聞いた。
類似犯罪の増加で可視化された最新システム悪用の万引き
RFIDタグは、それぞれに割り振られている番号を電波で瞬時に読み取り、同じ商品を複数購入しても正確に処理できることが便利とされている。現在ではさまざまな業態で広く導入されている。
「報道などによると、ユニクロで試験導入が始まったのは2017年11月頃で、それから2年後の2019年中頃までに全店で導入されました。ユニクロ以外では大手スーパーのイオンや、経済産業省の後押しを受けたセブン-イレブンなどの大手コンビニチェーンが、セルフレジの仕組みとして導入しようと実証実験が行われています。
会計と紐づけた形ではありませんが、書店や一部のドラッグストアでは防犯を目的として、高額商品にRFIDタグを付けているケースもあります。また、RFIDタグは瞬時に一括で読み取ることができるので、アパレル業界では在庫管理・生産管理の手段として導入が進んでいます」(伊藤氏)
利用者の目には見えない形でも普及が進んでいるRFIDタグ。この仕組みを悪用した万引きはやはり増加傾向にあるのだろうか。
「実際にはもっと前からこういった万引きは起きていると思うのですが、感覚的には最近になって確認されてきたという認識がありますね。新しい会計システムが導入されると、犯罪者はその盲点を突く方法を考えるのですが、そういった不正の手口は集団窃盗のコミュニティなどで情報交換され、驚くほどの速度で共有されていきます。ですから犯行に及んだ人間が増えたことで広く視認されるようになり、時間差でSNSなどを通じて表に出てくるようになったのだと思います。
ユニクロやRFIDのシステムを納入したメーカーは、こういった犯罪の可能性は認識していたと思うのですが、ここまで手口が広がるとは想像していなかったのではないでしょうか」(伊藤氏)
万引きの抑止に必要なのはシステムの活用と人の力
伊藤氏によれば、万引きを取り巻く状況自体がコロナ禍で変化しているのだという。
「昨年のデータによると万引きの件数自体は微減しているのですが、刑法などの法律に規定された罪を犯した刑法犯のなかで占める万引きの割合は、2019年が12.5%だったのに対して20年は14.2%と上昇しています。
刑法犯の万引きが占める割合が増加した背景には、コロナ禍の影響があります。実は失業率の上昇と窃盗犯の増加は比例するというデータがあって、20年の完全失業率は2.8%と2019年より0.4%増えているんです。コロナ禍でお金に困った人が盗品を換金して儲けを得ようと考えるので、今、小売企業は万引きに対する警戒感を強めているというわけです」(伊藤氏)
最新のテクノロジーを導入してもその穴を突く万引きに対して、どのような対策を講じていくべきなのだろうか。
「抑止策は大きく分けると2つあり、ひとつはシステムを使った方法です。例えば、アメリカのウォルマートで実用化されているAIを使った画像監視システムは、不審な行動をとる利用客を検出し、犯行前からマークすることができます。こういったシステムを活用することは、万引きを防ぐ手立てとして有効ですね。
もうひとつは、人を使った方法になります。万引きGメンなどの保安員を雇うだけでなく、従業員に万引きの手口を教えるといった防犯教育を行い、危険に対する想像力、リスクセンスを鍛え、防犯意識を高めていくことも必要です。
最新システムを導入すると、どうしても効率化を考えて人を減らそうとしてしまうのですが、システムに頼り切りになるのはリスキーな行為。防犯に関する意識を高めた従業員をシステムと組み合わせることで、万引きを抑止していくことが非常に大事でしょう」(伊藤氏)
RFIDタグ悪用の万引きへのユニクロの対策とは?
今回話題となった万引きとその対策について、ユニクロを運営するファーストリテイリングのコーポレート広報部にも取材した。
「そのような事案があることは以前より把握しており、SNS上で話題となったことについても存じ上げておりました。詳細な認知件数については控えさせていただきますが、比較的稀な事案になります。
セルフレジの導入時からさまざまな状況を想定しておりまして、現在も店頭スタッフのオペレーションやレジ自体のUI(ユーザーインターフェース)の改善、RFID以外でのセキュリティ強化を実施しております。今後はさらにデジタル技術が進化していきますので、より安全で快適な環境でお買い物いただけるよう努めて参ります。
セルフレジではお客様が誤って商品を購入してしまわないよう、音声やUIによってご購入いただいた商品数の確認を複数回呼びかけさせていただいております。ご購入される商品や点数が正しいか、ご精算時に今一度ご確認くださいますようお願いいたします」(ファーストリテイリング・コーポレート広報担当者)
ユニクロもただ単に手をこまねいているわけではないようだ。
また、前出の伊藤氏によれば「RFIDタグを悪用した万引きに巻き込まれないよう、リスクセンスはあらゆる人が磨いていくべき」だという。我々も他人ごとではないということだろう。
(文=佐久間翔大/A4studio)