「プロ経営者」のひとり、魚谷雅彦社長兼CEO(最高経営責任者)は間合いを図っていた。そして好業績を背景に、長年の懸案である“負の遺産”の処理に踏み切ったのだ。
資生堂は11月1日、米子会社ベアエッセンシャルの「のれん代」などの減損損失655億円を計上すると発表した。これに伴い2017年12月の連結決算の見通しを修正した。売上高と営業利益は上方修正、純利益は下方修正した。
売上高は当初予想の9650億円から9850億円へ200億円増える。営業利益は560億円から650億円へ90億円のプラス。売上高は前期比16%増、営業利益は77%増の見込みだ。一方、純利益は当初予想の325億円から100億円へ、225億円下方修正した。一転して前期比69%減となる。
インバウンド(訪日外国人客)の取り込みに成功し、資生堂本体の化粧品事業は絶好調だ。売上高、営業利益とも当初の予想を上回り、過去最高となる。稼ぐ力がついてきたことから、ベア社の負の遺産を解消することにした。ベア社にかかわるのれん等の無形固定資産などの減損損失を特別損失として計上する。
のれん代は、日本会計基準では20年以内に各決算で販売費や一般管理費の費用に組み込んで処理する。ベア社に絡む減損は13年3月期に続き2度目。減損の合計額はのれんとほぼ同額の941億円だ。償却分を含めたコストはのれん代を上回り、ベア社は海外大型M&A(合併・買収)の典型的な失敗例となった。
ベア社を含む米国事業の16年12月期の営業赤字は118億円と、前期に比べて62億円悪化した。資生堂は今回計上する減損損失655億円の半分強が、のれん代の減損と説明している。償却が今後は減少する結果、来期以降の米国事業の営業損益は30億円弱改善するという。資生堂はアキレス腱だったベア社に、ひとまずケリを付けたといえる。