東京都が11日に開札した豊洲市場追加工事は、これまで落札業者が決まらず不調だったのに、4工事とも落札された。
不調だったのは、ゼネコンなど業者サイドが「反小池(百合子都知事)」で意思統一していたため。今回、小池氏は「入札改革」を諦めて業者の意向を優先した。小池氏の完敗である。
都知事選で「緑の風」を吹き起こし、圧倒的な勝利を収めて東京都に乗り込んだ小池氏が、「1丁目1番地」と位置付けたのが豊洲市場の再調査だった。その結果、「盛り土なし」が発覚、石原慎太郎元知事や歴代市場長の責任も追及して、「安全安心」のために追加工事を行うことになった。
ここでゼネコンは、工事を取りに行かないというサボタージュに出る。追加工事は、青果棟(5街区)、水産仲卸棟(6街区)、水産卸棟(7街区)のそれぞれに設けられた地下ピット室にコンクリートを敷き詰め、地下水管理システムを強化、換気設備を設置するもの。従って、各棟3工事で都合9件の入札となったが、9月末から入札を繰り返しているのに、これまで2件しか落札しなかった。
本来、追加工事は建物を建設したゼネコンが責任を持つもの。青果棟は鹿島建設、水産仲卸棟は清水建設、水産卸棟は大成建設が、それぞれ土地造成から建物建設までを請け負っており、追加工事は仕様から構造まで知悉している各ゼネコンが受注して仕上げる。ところが取る気がないから流す。
「都の工事は、都の役人とゼネコンと都議が、調整しながらうまくやってきた。そこに乗り込んできた小池さんが、『しがらみを排除して改革する』という。では、『ご自由にどうぞ』となった。その結果の不調も仕方がない」(自民党都議会関係者)
今年6月から導入された入札改革は、(1)予定価格の事後公表、(2)JV編成義務の撤廃、(3)1社入札の中止、などを柱としている。しかし、改革は豊洲で反故にされた。予定価格は事前公表に改められ、1社入札も認められた。そのため改革の眼目であった「予定価格の上限に合わせた99%以上の落札率(予定価格に対する落札額の割合)の抑制」は、見事に覆された。
今回の4工事のうち3工事はゼネコン分。青果棟地下水管理システムは5億5978万円で鹿島建設(落札率99.9%)、水産卸棟地下水管理システムは5億9897万円で大成建設(99.7%)、そして水産仲卸棟地下水管理システムは5億5348万円で清水建設(100%)だった。
いずれも価格は、前回の不調から予定価格は40%前後、上乗せされ、事前に公表されて実質的な1社入札。豊洲市場を2018年10月に開場すると宣言した以上、小池氏は業者選定を遅くとも18年1月、できれば今月中に決めたかった。そのためには、ゼネコンの主張を“丸呑み”するしかなかった。
強気のゼネコンの死角
ゼネコンがサボタージュしたのは、ひとつは工事受注が絶好調で各社、無理して工事を取る必要がないこと。2つ目は小池退潮を見切って、かつての都の官僚と都議会自民党と自分たち業者とのトライアングルを復活させていることである。小池氏は、もはや眼中にない。
東北復興、東京五輪と官公需は強く、訪日観光客を見込んだホテル需要やマンションブームなどで民需も強く、ゼネコン各社は絶好調。なかでも鹿島、大成、清水、大林組のスーパーゼネコン4社は、17年3月期決算で増収増益を達成し、笑いが止まらない。
面倒なことを言って注文をつける小池都政に従う必要もない。これは業界の総意で、そもそも豊洲市場においても3棟だから3社が受注したが、外れた大林組は清水建設とJVを編成しており、しかも受注した水産仲卸棟は土地改良工事、建設工事とも受注金額は最大。豊洲市場は4社でバランスを取った予定調和の世界である。
小池入札改革を忌避したゼネコンサイドにも言い分はある。
「役所の予定価格やスケジュールを優先すれば、赤字になることもあるし、現場に無理を強いることもある。でもそれを聞くのは、いずれどこかの工事で見返りや配慮を期待できるから。その“暗黙の了解”を『しがらみ』という言葉で切って捨てたのが小池さん。正直、豊洲市場をめぐる混乱は、自業自得だと思う」(ゼネコン幹部)
10月の総選挙で希望の党は敗北。小池旋風は完全にやんで、むしろ逆風が吹き荒れている。その象徴が、今回の入札結果だろう。
だが、調子に乗ってはいけない。小池氏を屈服させたゼネコンの論理が、今、リニア中央新幹線の建設工事で、「違法な建設調整」として暴かれている。捜査着手した東京地検特捜部にとっては、再生をかけた摘発であり、まず大林組の家宅捜索から着手したが、やがてスーパーゼネコン4社の談合システムを暴くことになるだろう。
「小池入札改革」は、豊洲市場の第1段階ではゼネコンのサボタージュによって敗れたが、彼らの天下が続く保証はなく、「小池復活」の芽は残されている。
(文=伊藤博敏/ジャーナリスト)