東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会にも、責任があるのではないか――。
新国立競技場の地盤改良工事の作業管理に現場監督として従事していた23歳の男性が、3月2日に失踪。4月に長野県で遺体で発見された。工事現場のセキュリティ記録などから、失踪する前の1カ月間は211時間56分の残業が認められた。男性の遺書には「身も心も限界な私はこのような結果しか思い浮かびませんでした」とあった。
現場の状況が過酷になった根底には、デザイン案が確定するまで時間がかかりすぎ、着工が予定より1年遅れたことにあると指摘されている。
この東京オリンピック(五輪)メインスタジアム建設現場監督の過労自殺事件について、建築エコノミストの森山高至氏は、当初のザハ・ハディド案に対して工期や費用の面から実現性に疑問を呈し、納期を優先して既存建物の改修を主張していた。今回の事態をどう見るのか、森山氏に聞いた。
大成建設の責任
「たいへん痛ましい事件です。入社1年目の若い方が、命を落とすようなことはあってはならない。1年目の方が、そんなに追い詰められる状況がおかしいと思います。ザハ案が白紙になった後に、ガンバ大阪のホームである市立吹田サッカースタジアムを施行した竹中工務店が提案したB案のほうがシンプルだし早いのではないかと、私は発言していました。採用された大成建設のA案は、コンペで勝つために工程予定も含めて無理な提案をしたという気がします。それで、突貫工事になっている可能性があります。
今回の現場監督自殺について、大成建設に責任はあるでしょう。基本的には元請けにすべて責任がありますから。なかなか見切りがつけられなくて着工が遅れたというところから考えると、組織委に責任があるといえなくもないです。大成建設と組織委、JSCの間で十分話しあってほしいです」
では、新国立競技場の建設現場の現状はどうなっているのだろうか。
「天気が良かったこともあって、当初の予定よりは順調になっています。しかし、自殺した彼が従事していたのは、そこに至るまでの前段階である地盤改良工事です。基礎の前の最初の最初の工事であり、工事中は遅れてはいけないというプレッシャーで無理な工程を組んでいたのかもしれないです」