建設現場と派遣の問題
大成建設は、法的に責任を問われる可能性はあるのだろうか。
「大成建設からすれば、『そんな無茶苦茶な残業をするような工程にはなってなかったのに、下請けが勝手に無理したんでしょう』という理屈でしょう。法的には、それで逃げられてしまう。下請けからすると、元請けから無理な工程を指示されました、とは言えない。弁護士と相談しながら、元請けを悪く言わないで、自分たちも悪く言われない方法を探しているのではないでしょうか。元請けがその機能を失っているという問題があると思います」
建設業界で、構造的な変化があったのだろうか。
「工事現場というのは長い時間がかかるので、派遣は認められてきませんでした。それが、2004年に建設設計・施工管理に関して派遣が認められるようになった。たとえば、『大成建設』という名刺を持っていても、実は派遣で一時的に雇われている人が8~9割を占めています。監督者、管理者、設計者も派遣社員になっています。当然、資格を持っている人もいますが、現場で工事の設計図を書いている人、作業図を書いている人も、正社員ではないケースが多いです。
派遣社員でかまわない職種というのもあると思います。たとえばテレビ番組をつくる場合、スタッフがいろいろなところから派遣されてきて、数カ月で番組が完成して解散ということでいいかもしれない。しかし、建築は何年もかかります。『あそこのコンクリート打ちは、誰が担当したの?』となっても、『もう担当者はいないです』という事態になってしまう。完成して5年後に不具合が見つかった場合でも、『どこが悪いの?』『配線図はあるが、これは誰がやったのか』ということになる。書類は残っていても、人間関係の引き継ぎができない。今回自殺してしまった若い方にしても、その上に元請けの大成建設の人がいるはずで、その人がもう少し管理業務をやらなきゃいけなかったかもしれない。『これやっといて』みたいな感じで、丸投げされていた可能性もありますよね」
建設業界の構造的問題
こうした歪みは、建設業界全体で生じているのだろうか。
「東京五輪とは関係ない都内のほかの現場でも、建設関係の人は相当遅くまで働いているケースが多いです。作業員の人は9時~17時で終わりますが、建設業のホワイトカラーは、会社で机の前に座っているのではなくて、工事の現場事務所にいて、発注業務、管理業務をやっているので、完全なホワイトカラーではありません。作業員よりも早く現場に出て、作業員が帰った後に後処理して、報告書を書く。それで帰るということだから、だいたい帰るのが、夜の10時とか11時になってしまうのです。