新年度の始まりとなった1日、大小を問わず多くの企業が新入社員を迎え入れた。そんななか大手電機メーカーシャープのTwitter公式アカウントが全国の新入社員に向けて次のような投稿を行い、じわじわと注目を集めている。
今日からどこかで働き出す新入社員のみなさん。職場では「こんなの当たり前だから」という顔や理由で仕事を教えてくる人がいます。それほとんど、当たり前じゃないから。その会社、その業界だけの当たり前なことがほとんどだから。むしろこっちが検証してやるくらいがちょうどいいと思います。
— SHARP シャープ株式会社 (@SHARP_JP) April 1, 2021
「今日からどこかで働き出す新入社員のみなさん。職場では『こんなの当たり前だから』という顔や理由で仕事を教えてくる人がいます。それほとんど、当たり前じゃないから。その会社、その業界だけの当たり前なことがほとんどだから。むしろこっちが検証してやるくらいがちょうどいいと思います」(原文ママ、以下同)
「私はツイッターで会社からはみ出すことで、いままで教えられてきた『そんなの当たり前』がそうでなかったと知りました。ましてやマスクみたく、常識が反転する時代です。新しい側の人は、どっちがまともか、自信をもってください」
この投稿に対して「目の付け所はもとより発言もシャープになってきましたね」「教える側に立つ者にもどうかアドバイスを…!」などと賛同を示すコメントが寄せられ、投稿から約4時間で約2750リツイートされ、約1万件の「いいね」を獲得した。こうした反応は、企業や業界の「当たり前」に疑問に感じる社会人が増えてきたということの証なのだろうか。自動車、IT、マスコミ業界の関係者に見解を聞いてみた。
業界・企業によくある「当たり前」
トヨタ自動車関連会社の社員にこの投稿を見せたところ、次のような感想が聞かれた。
「これは痛いところを指摘していますね。“カイゼンのトヨタ”と言われますが、なかには自己流に近い“トヨタ流の仕事の仕方”を若手に押し付ける社員がいます。『そんなことトヨタだったら当たり前だろ』という言葉はすごく便利ですから。要はベテランでも、ルーキーでも頭の柔らかさが必要なのかなと思います」
一方、新型コロナウイルス感染症の拡大が本格化した昨年4月、IT大手の楽天グループ関連会社に入社した男性はこの1年間を次のように振り返った。
「1回目の緊急事態宣言が発出される直前だった昨年の3月17日に入社式が延期になり、4月2日から予定されていた新入社員研修はすべてビデオ会議形式になりました。同期は700人いたはずですが、宣言解除後も時差出勤やテレワークが奨励されたこともあって一体感を感じない1年でした。
入社前は三木谷浩史社長のイメージもあって、チャレンジングな職場なのかなと思っていたのですが、私の所属している部署はそうでもなく……。例えば、楽天がもともとノウハウを持っていなかった新サービスを提供する部署では、他社から移籍してきた幹部が仕事の方針やルーチンを作ります。その幹部が『俺が前にいた〇〇では、こういうやり方が当たり前だった』と主張すれば、プロパーの社員には反論する材料も実績もないので、それがローカルルールになってしまうようです。
当然、楽天グループ全体の方針は三木谷社長の鶴の一声で決まるので、それぞれのルールは楽天向けにマイナーチェンジされています。ただ、新人社員は社内に乱立するいろいろな『当たり前』を前に困惑しているのは確かです」
「ろくでもない当たり前」が蔓延する記者クラブ
一方、全国紙社会部記者はマスコミ業界の「当たり前」に対して次のように不快感を示した。
「ろくでもない『当たり前』がまかり通っているのは、中央省庁に設置されている記者クラブでしょうね。一番わかりやすいのがエネルギー記者会と総務省記者クラブ。エネルギー記者会は東京電力福島第1原発事故が発生するまで、発表者である経産省や電力各社、質問者である報道陣に至るまで排他的な雰囲気が漂っていました。
例えば、うちの若手記者が原発の安全性に関して、東京電力に科学的な知識のない読者や自分にもわかるような説明を求めたことがあったのですが、『原発は多重防護で安全性が確保されているのは当たり前。そんな素人みたいな質問をするな』とか『もっと勉強してから質問をしろ』などと他社のベテラン記者から失笑されました。若手記者は東電と記者の予定調和な質疑応答を見て『歌舞伎みたい』と悔しそうにしていましたよ。
総務省記者クラブは、菅義偉首相の長男を含む東北新社幹部の接待問題の対処の仕方を見ればわかります。本来であれば、疑惑追及の橋頭堡にならなければいけないのに、実際はそうなっていませんよね。
結局、ほぼ週刊誌のスクープ頼みです。ろくに記事も書かず、政府へのロビー活動に専従する『波取り記者』が記者クラブいるのは『当たり前』でいいんでしょうか。読者や視聴者、国民に納得してもらえるのか疑問です」
コロナ禍もあり、以前の「当たり前」が通用しなくなりつつあるのは確かだろう。既成概念にとらわれていない新社会人の柔軟な発想や疑問に大いに耳を傾けたいものだ。
(文=編集部)