バレンタインデーを2週間後に控えた2月1日、日本経済新聞の一面に「日本は、義理チョコをやめよう。」というキャッチコピーの入った広告が掲載された。広告を打ち出したのが、バレンタインシーズンが書き入れ時でもあるチョコレートメーカー、ゴディバジャパンであることに、驚いた方も多いだろう。
ゴディバは、ベルギー発のチョコレート菓子専門店。こだわり抜いた素材や芸術性の高いデザインなどで、“チョコレート1粒で数百円”という値段もさることながら、バレンタインシーズンには、店舗の前に女性たちの行列が見受けられる老舗チョコレートメーカーだ。
同広告内には「(バレンタインは)社内の人間関係を調節する日ではない」とも書かれている。ゴディバの広告の主張を要約すると、義理チョコ疲れにより多くの女性がバレンタインデーを楽しめなくなってきているので、純粋な気持ちを伝える歓びをもう一度取り戻すため、義理チョコをやめよう――ということだろう。
とはいえ、チョコレートメーカーとしては一年の中でもっとも盛り上がるビジネスチャンスであるバレンタインシーズンに、ここまで思い切った広告を掲載したインパクトは強い。
冷静にゴディバの戦略を分析する人も多い
ここで、ゴディバが打ち出した“義理チョコ文化反対”とも解釈できる広告に対するインターネット上の声をいくつか紹介しよう。
「“本命チョコ”として贈られるブランドの余裕かもしれないが、無理に会社の人間関係を円滑にするためにチョコレートを買っている人にとっては嬉しい言葉だと思う」
「日本の義理チョコ文化をビッグビジネスとして捉えている同業他社への妨害工作なのではないか」
「毎年、女性社員がお金を出し合って、当たり前のように上司にチョコレートを贈るのが疑問だった。ゴディバの広告は“よく言ってくれた!”という思い」
「義理チョコを否定しているのでなく、強烈なインパクトを与えることで、改めて大衆にバレンタインを意識してもらうための情報戦略ではないか」
半ば“義務化”された職場の義理チョコ文化を苦痛に感じている女性たちからは賞賛の声が上がる一方、本命チョコレートとしてチョイスされることが多いゴディバが、消費者を囲うために打ち出したキャッチコピーなのではないかと、企業戦略を推察する声もある。
「ブラックサンダー」で有名な有楽製菓の真意
ゴディバの広告が話題に上がるなか、「一目で義理とわかるチョコ」と記載されたチョコレート菓子「ブラックサンダー」を発売する有楽製菓が、ツイッター上にて次のような反応を示していた。
「とある広告が話題のようですね
よそはよそ、うちはうち。
みんなちがって、みんないい。
ということで有楽製菓は引き続き『日頃の感謝を伝えるきっかけ』として義理チョコ文化を応援いたします」
そこで、ツイートへの真意や、今回のゴディバの広告に対する見解を知るべく、有楽製菓のマーケティング部に話を聞いた。
「ゴディバ様の広告は、義理チョコを楽しんでいる方は今まで通りに続ければいいという前提のもと、義理チョコを用意したりあげたりすることが苦痛であるならば、無理せずそれは辞めようという意図だと、拝見しております。
弊社としては、義理チョコは周囲への気遣いや協調性を大切にする国民性により生まれた、日本独自の素敵な文化だと思います。また、普段伝えられない日頃の感謝を伝えるコミュニケーションツールとして義理チョコを贈ることで、周囲との温かい人間関係を構築するきっかけにもなるのではと考えております。
しかし、苦痛に感じながら贈るものではない、というゴディバ様の御意見に対しては、同意でございます。
今回の話題で、チョコレートにさらに注目が集まったことをきっかけに、本命チョコの売上が上がる可能性があるのではと考えておりますが、義理チョコへの影響は正直なところ、はかりかねております」(有楽製菓マーケティング部)
“苦痛に感じながら贈るものではない”というゴディバの意見には同意しているという有楽製菓。「よそはよそ、うちはうち」というツイッターの投稿からは、「チョコレートブランドが持つそれぞれの個性や値段などから、適切なチョコレートの送り方があるのではないか」といったメッセージが感じられたが、このツイートをした真意はとこにあるのだろうか。
「おっしゃる通り、それぞれの商品に合った用途があると思います。当社の『ブラックサンダー』は1本30円(税抜)という低価格の商品です。『ブラックサンダー』だからこそ、渡すほうももらうほうも気兼ねなく、日頃の感謝を伝えるのにぴったりだと考えております。
義理チョコという素敵な文化は続いてほしいと願っております。苦痛に感じながら用意する、いわゆる“義務チョコ”と呼ばれるような義理チョコは減り、心のこもった義理チョコがやりとりされるようになっていけば、よりいいと思います」(同)
確かに、ブラックサンダーのような安価な商品であれば、女性側の経済的負担も最小限にとどめられ、男女双方がそこまで身構える必要もなくなるだろう。有楽製菓のキャッチコピー通り、“義理”にふさわしい商品といえるかもしれない。
有楽製菓のほかに、森永製菓、ロッテの2社にもゴディバの広告に対する見解を求めたが、いずれも「コメントを差し控えていただきます」との回答だった。
ゴディバ広告は“義理チョコ文化”に一石を投じた
ネット上では賛否両論が見られたゴディバの広告だが、望まないチョコレートを購入する消費者への気遣いから打ち出されたキャッチコピーに好印象を抱いた女性がいることは確かなようだ。
さらに、有楽製菓がツイッター上にてゴディバの広告を話題にしたことで、バレンタインに対する関心が高まった。
今回、チョコレートメーカーが持つそれぞれの“色”による主張が注目されたわけだが、あらためて日本独特の“義理チョコ文化”に一石を投じる話題だったのではないだろうか。
(文=A4studio)