そして、このようなお互いの強みを発揮することにより、鴻海はシャープを1年以内に黒字化することを絶対的な目標としていました。そのために行われた経営戦略が経費削減とスピード経営です。まず、かつて日産自動車を復活させたカルロス・ゴーン氏を彷彿させる徹底した経費削減を敢行しました。また、買収前は月1、2回だった経営戦略会議を、事業部などの要請により随時開けるようにし、またテレビ会議システムや電子黒板を導入して、意思決定の迅速化を図ったのです。
こうして、経費削減を行いつつスピード経営の体制を整えたことが、経営の黒字化という結果を招いたのです。鴻海の当初の計画通り、現在はシャープと鴻海がお互いの強みを補完しあって利益を出すところまでたどり着きました」(同)
それでもまだシャープは“完全復活”とはいえない
鴻海流経営戦略により黒字へと転換したシャープだが、「シャープは復活した」といっていいのだろうか。
「まだ、“完全復活”とまではいえないでしょう。補完し合って利益を出すところまではきていますが、その先はどうなるのか、という問題があるためです。今はシャープと鴻海がそれぞれ得意分野を活かした、いわば分業で利益を出すことが多いのですが、“完全復活”のためには、シャープと鴻海が組んで新しいビジネスの価値を生み出す必要があります。
シャープの元副社長で、世界初の手のひらサイズ電卓『QT-8D』の開発者としても知られる佐々木正氏が、常々口にされていた『共創(きょうそう)』という言葉があります。今のシャープに必要なのはまさにその『共創』であり、新しい価値を鴻海と共に創りあげていくことが必要だと私は思います。
たとえば現在、シャープは2018年度の液晶テレビの世界販売台数を、シャープや鴻海の自社ブランドだけで1000万台とする計画を打ち出しています。これは、一番大きなマーケットである新興国に向けてテレビを販売しないと実現できないと考えています。そのためにはシャープが単体で4K、8Kのテレビをつくればいいというわけではなく、どういうマーケットに対してどういう商品をつくればいいのかを、鴻海と共創していかないといけないでしょう。それがシャープの今後の課題ではないでしょうか」(同)
自前主義のプライドを捨て、アジア諸国と連携すべき
単にお互いの強みを補完し合うだけではなく、シャープと鴻海が共創しないと今後は厳しいということだが、近年の大手電機メーカーの不調はシャープだけに限った話ではない。
日本のものづくり産業のあり方について、中田氏はこう述べている。
「日本はアジア諸国と提携したものづくりをしないといけない時代になってきています。かつて鴻海と共にシャープ買収に名乗りを上げた産業革新機構は、技術流出を防ぐために、ジャパンディスプレイ(JDI)と統合することで、『日の丸液晶連合』をつくろうと想定していましたが、今のJDIは破綻寸前の状態です。技術流出を恐れて、国内だけの自前主義でやっていこうとしていると、グローバル競争で勝つことができないのです。
シャープが鴻海に買収された際、『日本企業が台湾企業に買収されて情けない』などとも言われていましたが、私はまったくそうは思いませんでした。日本の企業がアジアの企業とどう連携し、新しい価値を生み出していくのか、今後はそこが最も重要だと考えています」(同)
鴻海によって生まれ変わったシャープのように新しい風を受け入れ、変わり行く時代に対応することが日本メーカーには必要なのかもしれない。
(文・取材=A4studio)