前回は、職場を壊す要因の一つとして、モンスター「役職定年」社員を取り上げた。今回は、同様に職場を壊す要因のうち、さらに多く見受けられる事象としての「子ども社員」について取り上げたい。
「子ども社員」とは子どものように幼稚化している社員のことである。昨今職場で多く見られる。パワハラ上司などは、他者への配慮に欠けているという段階で、すでにこの傾向がある。さらには、部下は会社から一時的に預かっている会社の資産であるにもかかわらず、まるで自分が自由に使える自分に与えられた道具のごとく考えているような上司は、完全に「子ども社員」である。
「子ども社員」がアメリカでも増殖中
「子ども社員」化という状況は、日本だけの問題ではない。米国でも、同様のことが問題になっている。米CBS Newsの記事『The rise of childish workplace behavior(職場での子どもじみた振る舞いが増加)』(Aug .20, 2015)の記事では、調査結果を基に、今、米国の職場では小学校で起こるような「子どもじみた行動の増加」が見られると伝えている。
管理職2500人以上と労働者3000人以上を対象にしたこの世論調査には、愚痴や不貞腐れ、癇癪のような未熟な行動が、米国の職場で頻繁に目撃されているという結果が出ているとのことだ。回答者の4分の3以上が、同僚間で「子どもじみた行動」を目撃している。同僚の泣き言に遭遇した人は半数以上、物事が思い通りにいかなかったときに公然と膨れっ面をするのを見た人も半数近くいるという。
4割以上が、同僚についての陰口を目撃しており、就業中に人の背後で嫌な顔をする同僚を見た人も3割いる。職場での排他的な派閥づくりや、同僚の悪い噂をふざけて流すことに遭遇した人も3割いる。
さらに、怒ってその場を放り出したり、作業中に癇癪を起こしたり、オフィスの備品を同僚と共有することを拒んだりするケースも3割が目撃している。職場の行動に関する学術研究によると、このような礼儀に反した行為は不快なだけでなく、伝染性があって悪性の風邪のようにオフィスに広がることがわかっている。誰かがひとり子どもじみた言動を取ることで、それが職場全体に広がるのだ。
子ども社員の特徴
職場で見られる「子ども社員」の特徴をまとめると、以下のようになる。
・他人に関心がない。自分のことばかり考えている。
・他人を変えようとする。自分が変わろうとはしない。
・他人に働きかけない。自分に何かしてくれるのを待っている。
・自分がうまくいかないのを他人のせいにする。失敗から学ばない。
・チャレンジしない。従来路線を踏襲する。
・自ら話しかけない。話しかけられるのを待っている。
職場の問題の多くは、これらの特徴を持つ「子ども社員」が引き起こしていると言っても過言ではない。自分さえよければよく、他人に関心がなければ、当然ながら「人が育たない」とか「助け合いがなされない」という問題は発生する。失敗を他人のせいにして、失敗から学ばなければ、成長もない。そもそも、失敗はしたくない、無難にやっていたいということで、失敗を回避し続ければ、「チャレンジがなされない」「イノベーションが起こらない」という問題となる。また、互いに他人に関心がなく、周囲との関係性に配慮しなければ、「モチベーションが高まらない」という問題が起こり、「メンタル上の問題」にも発展し、さらには「離職」にもつながる。「子ども社員」が多い職場では、自分は悪くない、他人が変わるべき、と皆が思っている。そして、自らアクションは起こさず、悪循環となっている。
「子ども社員」と「おとな社員」を分けるもの
「子ども社員」と、本来のあるべき「おとな社員」とを分ける一番大きな要素は、「他人志向か自分志向か」という違いである。おとな社員は「職場の仲間のために何ができるか」と考えるが、子ども社員は自分のことしか頭にない。自分はいつも正しいと考え、自分よりも他人を変えようとする。おとな社員ができるだけ上機嫌に振る舞おうとするのに対し、子ども社員は不機嫌さを平気で表に出す。おとな社員は自分から積極的に話しかけるが、子ども社員は話しかけられるのを待っている。しかも限られた人としか話さない。やっかいなのは、子ども社員ほど自他の関係を客観的にとらえられないため、「自分は大人で、周囲の他人こそが子ども」と考えがちなことだ。
職場において「寛容性」が失われていることが、「子ども社員」化を促す原因の一つだが、会社自体も寛容性を失い、「子ども化」しているともいえる。長期的な展望がなく、収益上苦しい状況になると簡単にリストラの判断をしがちであるなど、会社自体が自己保身に走るような状況も見られる。そのようななかで、社員は余裕をなくし、自分のことしか考えなくなったり、自己保身のために他者に対して攻撃的なスタンスを取りがちになるなど、会社の「子ども化」と相まって、「子ども社員」化が進んでいるという状況がある。
対話しかない
では、どうすれば「子ども社員」化を回避できるのであろうか。自分にだけベクトルが向かないように、他者へ関心を寄せることが鍵となる。他者に意識を向け、関心を持つためには、対話があることが前提となる。対話さえあれば、自ずと他者へ関心は向かう。
職場でのことではないが、最近、対話の重要性を実感した例が身近にあったので、紹介してみたい。
私は、週末にスポーツジムに通っているが、そこでのことである。トレーニングが終わり、ロッカールームで着替えていると、20代前半とおぼしき若者が入ってきて、ベンチに荷物を2つ、ドカン、ドカンと大きな音を立てて置いたのだ。「何もそんなに雑に投げるように置かなくても、他人への配慮というものがかけらもないなあ」と瞬時思ったが、そう思って不機嫌になるのも大人げないと思い、対話を試みてみることにした。
「今日も混んでますね」と当たり障りのないことを言ってみた。すると、話しかけられるとは予想していなかったのか、一瞬ポカンと間が空いて後に、「あ、はい、そうですね」と返してきた。ごく普通のまっとうな若者である。着替え終わり、帰り際に「じゃあ、お先に」と言うと今度は、「おつかれさまでしたー」と返してくれた。実に感じのいい若者である。
彼が先ほど入ってきたときと何が違うのかといえば、対話があったかなかったかだけである。両者の間にほんの些細な、あいさつ程度の対話があっただけで、こうも違うのである。対話がなければ、それだけであたかも敵のようなイメージを抱きがちだが、ちょっとした対話があっただけで、とたんに仲間という意識になるのだ。
職場の中でもこのようなことは多いはずだ。「子ども社員」化の背景には、職場での対話が減ったということが直接的な要因としてある。毎日のように顔を合わせて一緒に仕事をしている仲間と普通に対話するというごく普通のことが、普通になされなくなってきたところに問題がある。いったん少なくなった職場での対話を再び活発にするということは、意外とハードルが高いことかもしれない。しかし、それ以外に「子ども社員」化を防ぐ道はない。
(文=相原孝夫/HRアドバンテージ社長、人事・組織コンサルタント)