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「加谷珪一の知っとくエコノミー論」

日本以外の先進国、早くも景気過熱&金利上昇の懸念…日本経済、警戒が必要なモード入り

文=加谷珪一/経済評論家
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菅首相のインスタグラムより

 米国の金利が急ピッチで上がっていることから、金融政策の見直しが囁かれるようになってきた。今のところ日本の金利は安定しているが、米国の金利上昇が続けば日本も無縁ではいられない。金利が上がれば、否が応でも出口戦略を議論せざるを得なくなるという現実を考えると、量的緩和策はいよいよ大きな曲がり角を迎えたといってよい。

米国の長期金利が急上昇

 今年に入って米国の長期金利が急上昇している。年初には1%前後だった10年物国債の金利は3月に一時、1.7%を突破。その後、少し落ち着いたものの1.5%台を維持している状況だ。絶対値としてはまだ低い水準だが、2020年中には0.5%まで金利が下がっていたことを考えると、直近の金利上昇はかなりの急ピッチと映る。

 米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は2014年に量的緩和策を終了し、その後、金利の正常化を試みた。市場動向を見ながらも一定のペースで金利を引き上げることが当初の目標だったが、これに待ったをかけたのかトランプ前大統領である。トランプ氏は景気拡大を優先するため、FRBによる金利引上げを牽制。この動きと前後して米国の景気が一時、踊り場に差し掛かったこともあり、パウエルFRB議長は、機械的な金利の引き上げについて断念せざるを得なかった。

 量的緩和策という非常事態から元の状態に戻すことを出口戦略と呼ぶが、コロナ危機の発生で各国景気が悪化し、米国の金利もが2020年に入って急落したことから、出口戦略はかなり先になるとの見方が一般的となった。

 ところがコロナ危機が市場に思わぬ変化をもたらしており、景気回復に時間がかかるという従来の常識は変わりつつある。その変化とは、コロナ危機をきっかけとした経済のデジタル化である。

 このところAI(人工知能)に代表される新しいテクノロジーの驚異的な進歩によって、産業構造が激変するとの見方が台頭している。コロナ危機発生前の段階では、一連の変化は10年~20年という単位で進むと思われていたが、コロナ危機の発生が状況を一気に変えた。

 各社はコロナ危機に対応するため、非対面でのビジネスを急拡大し、それに伴って業務のデジタル化を猛烈に進めている。加えて、サプライチェーンのリスクを最小限にするため、調達範囲の縮小と近隣取引の拡大を進めており、これに伴って物資の調達コストが跳ね上がっている。

むしろ景気過熱が心配される事態に

 デジタル化の進展があまりにも急ピッチであることから、全世界的に半導体が不足するという異常事態も発生しており、半導体メーカー世界最大手の米インテルは、何と国内に他社の半導体製造受託を行う新工場(ファウンドリー)を建設するという驚くべき決断を行っている。

 しかも、日本を除く先進各国ではワクチン接種が順調に進んでいることから、世界はコロナ後を見据えた先行投資競争に邁進しており、資材価格も急騰している状況だ。

 つまり、コロナ危機によって経済のデジタル化が急ピッチで進み、ワクチン接種によって景気回復の目処が立ったことから、景気過熱すら指摘されるようになってきた。景気の過熱要因はそれだけではない。新しく政権の座についたバイデン米大統領は、矢継ぎ早に超大型の財政出動を表明しており、その規模は総額で約420兆円という途方もない額に膨れあがっている。

 予算は議会が決定するため、全額が執行されるのかは分からないが、前代未聞の財政出動が実施されるのはほぼ間違いない。バイデン政権は財源を確保するため法人増税や富裕層向けの所得増税などを行う方針だが、財源の多くは国債増発となるので、増税による消費低迷よりも財政出動効果のほうが圧倒的に大きいだろう。

 整理すると、コロナ危機をきっかけに、次世代の成長エンジンとなるデジタル化投資が前倒しで行われ、ワクチン接種が進んだことから、コロナ後を見据えた資材の争奪戦がスタート。さらには米政府が前代未聞となる巨額の財政出動を計画している。景気を後押しする材料がここまで出揃うことは珍しく、市場において景気過熱を懸念する声が出てくるのは、当然の結果といってよいだろう。

市場ではインフレ懸念が台頭中

 景気が過熱するとインフレが予想されるので、債券市場はそれを見越して金利の上昇が始まっているというのが一般的な解釈である。同時に財政出動の財源の多くが国債であることから、財政悪化を警戒する動きも混じっている。景気拡大と財政懸念の両方が混在した形で、金利上昇が進んでいると見てよいだろう。

 もし米国の景気が順調に回復すれば、賃金や物価も相応に上がり、いわゆる良いインフレになる可能性もある。だが需要過多で物不足が続いた場合には、予想外にインフレが進む可能性があることは否定できない。そうなってくると、注目を集めるのが金融当局のスタンスである。

 今のところFRBは目立った動きを見せておらず、パウエル議長も正常化について「まだ議論する時期ではない」と市場を牽制する発言を行っている。足元のインフレ懸念の上昇だけで正常化を急ぐことはないだろうが、予想外に金利が上昇した場合には話は違ってくる。

 現在1.6%程度の金利が1%台後半となり、2%を突破するような状況となれば、FRBも何らかの対応を行わざるを得なくなる。5月12日の株式市場では、4月の消費者物価指数が予想外の伸びだったことから、金利上昇が警戒され売り一色となった。一方で、債券市場は買いが旺盛であり、金利はむしろ下がっている。実際に株式と債券を現物で行き来する投資家は少ないが、見かけ上は株の売却で得られた資金が債券に回った格好であり、株と債券のダブル安にはなっていない。

 しかしながら市場にインフレ懸念が存在しているのは間違いなく、何かをきっかけにそれが債券売りにつながる可能性については警戒が必要だろう。

金利上昇の影響をもっとも受けるのは日本

 米国の場合、経済に十分な基礎体力があり、巨額の財政出動による効果も期待できるので、仮に金利を引き上げても軟着陸を模索できる。一方、不用意に金利が上がった時に極めて制御が難しくなるのが日本である。

 2021年3月末時点における日銀の国債保有額は530兆円を突破している。量的緩和策で供給されたマネーはほとんどが日銀当座預金にブタ積みされており、市中には出回っていない。だが金利が上がれば銀行は収益を犠牲することはできないので、当座預金を引き出す可能性が高く、巨額のマネーがいよいよ市中に流出する(これを防ぐため日銀が巨額の利子を付与すれば莫大な国民負担が生じる)。

 日本はワクチン接種で致命的に出遅れており、景気回復の見通しも立っていないことから、10年物国債の金利は0.1%弱で安定推移している。日銀としては量的緩和策を継続する以外に選択肢はなく、日本において今、出口戦略を議論しても鬼が笑うだけだろう。だが、市場というのは時に制御できない力を持つものであり、グローバルで金利上昇が顕著となれば日本市場だけが無風というわけにはいかなくなる。

 実際、米国の金利が急上昇した2021年3月には、一時的ではあるが、日本の長期金利が0.15%に急騰し、一部の投資家を震撼させた。その後、再び金利は低位安定しているが、3月の動きは市場が持つパワーを垣間見せたとも言える。

 日本が金利への警戒感を持つ必要がない理由が、ワクチン接種の遅れというのは何とも情けない話だが、当面の間は、日本の金融政策に変更はないだろう。だが、グローバル市場はコロナ後を見据えて急ピッチで変化している。気がついた時にはすでに金利上昇が止まらなくなっているという可能性もゼロではない。相応の警戒が必要なモードに入ったと考えるべきだろう。

加谷珪一/経済評論家

加谷珪一/経済評論家

1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『教養として身につけたい戦争と経済の本質』(総合法令出版)、『中国経済の属国ニッポン、マスコミが言わない隣国の支配戦略』(幻冬舎新書)などがある。
加谷珪一公式サイト

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