キリンビールが満を持して発売した「キリン一番搾り糖質ゼロ」の売れ行きが好調だ。ライバルのサントリービールも新規参入するなど市場が盛り上がりつつある。しかし、キリンの製品の味わいをめぐっては「水っぽい」「美味しくない」との指摘も一部ではあり、改善が図られなければ、一番搾りのブランドイメージ低下も免れない。
旨いものは脂肪と糖で出来ている?
5年の開発期間を経て、キリンビールが昨年10月に発売した糖質ゼロビールは国内初の商品。キリンビールの4月6日の発表によると、糖質ゼロビールの販売数量は約半年で300万ケース(大瓶換算)に上った。これは過去10年のビール製品としては最速のペースという。
テレビコマーシャルには、大物俳優・女優を起用する力の入れようだ。今年1〜3月の販売数量は年初計画比を3割上回り、4月の製造予定も同6割を超えるなど順調。同社はその理由について「コロナ禍による健康志向の高まりで、糖質を気にする方が増えており、糖質オフ・ゼロ系ビール類は好調に推移しています。また酒税改正によってビールカテゴリーが減税され、お客様のビールカテゴリーに対する関心が高まっています」と説明している。
手塩にかけて開発した上、売れ行きが堅調にもかかわらず、消費者からは厳しい反応もあがっている。インターネット上なども含めると、「深みがない」「食べ物、飲み物に好き嫌いはないが、これはダメ」「硫黄の臭いがする」といった声が聞かれる。数年前に某商品のコマーシャルのフレーズのように、やはり「おいしいものは、脂肪と糖でできている」のかもしれない。
なかには風変わりな感想も聞かれる。糖質ゼロビールを頻繁に飲むという消費者は「普通のビールなら数本飲んでしまうところだが、糖質ゼロはまずいので一本で済む」と話す。それならば、第3のビールを飲むか、いっそのことなら炭酸水を飲むほうがコストパフォーマンスがいい。
酒税改正により、ビールの税率は段階的に引き下げられ、2026年10月には発泡酒や第3のビールと同じ54.25円(350ミリリットル当たり)に改定される。税制上不利だったビールの競争条件が発泡酒や第3のビールと同一になり、大手各社とも引き続きビールに集中的に資源を投入することになる。
ただ、キリンビールをめぐって気懸かりなのは、糖質ゼロ以外の既存の一番搾りも品質について一部で疑問の声があることだ。19年のリニューアルで低下したともいわれた味わいは、21年には若干改善が図られたが、「水っぽさ」は否めないという指摘もある。また、毎年秋頃に出される岩手県のホップを使った限定商品も昨年ごろから、フルーティーな味わいや香りが感じられなくなったという声も聞かれる。
キリンビールは20年のビール類(ビール、発泡酒、第3のビール)の市場占有率がアサヒビールを抜き、トップに返り咲いた。第3のビール「本麒麟」が起爆剤となり11年ぶりに首位奪還したものの、スーパードライの売れ行きが鈍化したアサヒビールの敵失の部分が色濃くあり、キリンビールも浮かれてはいられない。
新型コロナウイルス感染症拡大で外食需要が蒸発するなか、業務用比率がライバルよりも高いアサヒビールは今年も苦戦が予想される。スーパードライ神話はもはや崩れた。世の中が外食に出掛けようというムードにはならないため、家庭用に強いとされるキリンビールが俄然有利なのは間違いない。
キリンビールが中長期的にアサヒビールを凌駕し続けるには、チューハイなど今後も伸びる市場の確保も大切だが、基幹ブランドの一番搾りを磨き続けることも重要。消費者の声に真摯に耳を傾け、特に糖質ゼロビールの刷新を図らなければ、新商品を投入したはいいが、気が付いたら市場から消えているという過去に何度も犯した悪循環に陥り、トップランナーの地位を再び失いかねない。