こうした報道の追い風などもあったためか、三光の平林隆広専務は今年2月9日付「日本経済新聞(電子版)」の取材に対して「14年6月期に牛丼が居酒屋を抜いて当社の主力事業になる。今期も100店出店する」とチカラめしの急成長に胸を張っていた。
ところが、その足元で御三家の「チカラめし包囲網」の輪が縮まっていた。
御三家のチカラめし包囲網は、御三家の「プレミアム丼戦争」というかたちで始まった。そしてプレミアム丼戦争の直接的な動機は、安売り競争からの脱却だった。
●煮る牛丼で御三家へ対抗
まず、松屋が12年8月に「焼き牛めし」(380円)を発売、次いで吉野家が同年9月に「牛焼肉丼」(480円)を発売、最後にすき家が同年10月に「豚かばやき丼」(630円)発売というかたちで、御三家の「焼き肉丼」が揃い踏みした。
いずれも定番の「煮る牛丼」と比べ、価格を高めに設定、「煮る牛丼で得られない味と食べ応えで、値段の底上げを図っている」(業界関係者)のが共通。プレミアム丼と言われるゆえんでもある。
プレミアム丼戦争が勃発した背景について、エコノミストの一人は「御三家の安売り競争が行き詰まる一方で、食傷感のある『煮る牛丼』より少々高めでも『おいしい牛丼』を食べたいという消費者層が出てきた。この新しい消費者層に活路を見いだした御三家が、相次いで『焼き肉丼』を投入したのが要因。当時、人気上昇中のチカラめしに触発されたのは言うまでもない」と分析している。そして「プレミアム丼戦争が、結果的にチカラめし包囲網の形成につながった」(同)という。
こうして御三家に「牛丼市場の大きなチャンス」を阻まれた三光は、今度は「煮る牛丼」に参入した。
今年3月に出店した新丸子店(川崎市)で煮る牛丼を発売したのを手始めに、5月末現在、9店で煮る牛丼を販売している。3〜5月の間に新規出店したチカラめし11店中、9店が煮る牛丼店になっている。
同社は「あくまで実験的な取り組み」と説明しているが、前出エコノミストは「御三家に行く手を阻まれ、焼き牛丼から消費者層の多い煮る牛丼への方向転換を図っているのは明らか」と言う。
一方、業界関係者は次のように分析する。
「焼き牛丼より調理が簡単で、パートの訓練期間を短縮できる。厨房の設備投資も軽い。客回転率の高い煮る牛丼へシフトすることで、業績回復を図ろうとしている。よほど資金繰りが苦しいのだろう。だが、これではチカラめしの差別化要素がなくなり、御三家とガチンコの低価格競争に引きずり込まれるだけ。『御三家と同じ土俵で勝負すれば負ける』との自戒は何だったのか」
周囲から無謀と言われた「居酒屋から牛丼への転換」の行方に注目が集まっている。
(文=福井晋/フリーライター)