チカラめしは「彗星のごとく出現した、牛丼業界のニューフェース」(外食業界関係者)として、11年6月に池袋に1号店を開業以来、首都圏の主要駅を中心にしたドミナント(集中)出店で12年9月に早くも100店出店を達成。多い月は15店も出店するなど、業界参入からわずか1年3カ月の急拡大ぶりだった。
牛丼と言えば牛肉を鍋で煮る牛丼が常識の牛丼市場で、牛肉をオーブンで焼く「焼き牛丼」で差別化を図ったのが特徴。タレで味付けした焼き肉を丼めしに盛ったボリューム感が、ガッツリ食べたい学生や若いサラリーマンに受け、瞬く間に人気牛丼チェーンになった。
12年8月からはFC(フランチャイズ)加盟店募集も開始。チカラめしを展開する三光マーケティングフーズは「14年中に直営とFC合わせて500店を目指す」との積極姿勢を見せていた。しかし、それも束の間、昨秋から出店ペースは急速に鈍り、9月の新規出店は3店、10月も4店と減速し、13年6月1日現在の店舗数は、首都圏、群馬県、大阪府、兵庫県に、合わせて132店にとどまっている。
出店ペースの減速とともに、三光はメディアに出店の中期目標をPRしなくなった。そして減速と軌を一にするかのように、三光の業績も低迷している。
同社が今年5月10日に発表した13年6月期第3四半期決算(12年7月-13年3月の9カ月累計)によると、売上高は前期比1.9%増の196億円を確保したが、営業利益は同89.1%減の1.8億円と大幅な減益に沈んだ。最終損益に至っては1.5億円の赤字だった。
同社はこの決算期間中、チカラめしを53店新規出店する一方で、早くも既存店が16店も不採算になり閉鎖、純増は37店にとどまっている。チェーン拡大ペースが急速に鈍ったのもうなずける。
同社は通期の業績予想も、すでに2度も下方修正している。第3四半期決算と同時に発表した2度目の通期下方修正では、売上高が前期比0.4%増の260億円、営業利益が同97.7%減の0.4億円、最終損益が5.7億円の赤字となっている。
同社はこの業績予想について「主力の居酒屋事業の売上低迷、東京チカラめし事業の新規出店計画未達、食材の価格高止まりなどが原因」と説明している。
だが、業界関係者は「売上高の8割程度を占める『金の蔵Jr.』など居酒屋の業績不振に効果的な手を打てなかったのに加え、デビュー当初は出店ラッシュを様子見していた牛丼御三家が、昨秋辺りから本格的な『チカラめし包囲網』を敷いたのが、業績低迷の真因」と見ている。
つまり、チカラめしに限って言えば、すき家、吉野家、松屋の牛丼3強(牛丼御三家)が揃って“チカラめし潰し”にかかってきたというわけだ。
●迫る御三家のチカラめし包囲網
そもそも、三光が牛丼事業に参入したのは「本業の居酒屋不振を立て直せず、その不振をカバーするのが目的だった」(同)と言われている。
1975年に個人営業の定食屋からスタートし、91年に開業した個室型居酒屋「東方見聞録」のヒットで居酒屋チェーンを拡大し、同社は成長してきた。09年に開業した全品270円均一の「金の蔵Jr.」は「低価格居酒屋ブーム」を巻き起こし、居酒屋業界の麒麟児と言われた。
ところが低価格居酒屋ブームは長続きせず、11年に入ると「ブームは終わった」と居酒屋業界で言われるようになった。同社の営業利益も、10年6月期をピークに減少に向かっている。
そこで前述の牛丼事業参入になるのだが、今のところ「なぜ牛丼だったのか?」は詳らかではない。ただ、チカラめしがまだ昇竜の勢いにあった昨春頃のメディアの取材に対して、同社の平林実社長が「居酒屋は日常の息抜きの場としてたまに利用されるだけだが、ファストフードは日常生活の一部であり、ガスや水道並みのインフラになっている。まだまだ伸び代がある。特に牛丼市場は大手がたったの3社。そもそも30年にわたって新規参入がなかったのが異常。牛丼市場には大きなチャンスが広がっている」と語っている。つまりは「ラーメンと並ぶ国民食」と言われる牛丼の、市場の奥深さに魅入られたのかもしれない。
そして「後発が先発と同じ土俵で勝負すれば負けるのが当然。だからニューアイテム(焼き牛丼)で先発と勝負した」(平林社長)と語っている。
こうした平林社長のチャレンジに共感したのか、チカラめしの失速が見え始めた今春まで、メディアの「チカラめし礼賛」は続いた。
例えば、12年12月4日付「NEWポストセブン」は昨年12月、「チカラめしは売上高、店舗数共すでに業界5位の神戸らんぷ亭を抜き、4年以内の1000店に向かって驀進している。今の勢いが続けば4位のなか卯も抜き去り、業界の第三極に躍り出てくる可能性が十分ある」と報じた。