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任天堂、早くも「Switchが飽きられた後」への不安…Wiiの悪夢は繰り返される?

文=真壁昭夫/法政大学大学院教授
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任天堂、早くも「Switchが飽きられた後」への不安…Wiiの悪夢は繰り返される?の画像1任天堂・君島達己社長(角倉武/アフロ)

Nintendo Switch」のヒットによって、任天堂の業績が顕著に拡大している。1個のヒット商品のおかげで、2017年3月期に6.0%だった営業利益率は18年3月期に16%超まで上昇した。ヒット商品のインパクトは大きい。

 近年の任天堂の経営を振り返ると、同社の経営は大きく変質している。もともとトランプや花札のメーカーだった同社は、これまでゲーム機を中心に大きなヒット商品を生み出してきた。そのヒット商品が、関連するゲームソフトや機器の売り上げにつながった。2002年に社長に就任した故岩田聡社長は、「Wii」をヒットさせた。06年にWiiが発売されると、老若男女がゲームを楽しむことができる特徴が支持され、多くの人が同機、そのソフトを求めた。それが、業績の拡大と株価上昇を支えた。

 ただ、ヒット商品はなかなか続かなかない。Wiiの人気が一巡するとともに、業績は伸び悩み、悪化した。6月末、岩田氏が開発に着手したNintendo Switchのヒットを実現させた君島達己社長は退任する予定である。次期社長に就任予定の古川俊太郎氏は、君島氏の発想を踏襲し、Switchを中心に関連するプロダクトやソフトの開発に力を入れることが予想される。

 今後、Switchブームが冷めると、任天堂の成長にはブレーキがかかる恐れがある。そのリスクを抑えるには、同社が新しい収益の柱を育てなければならない。次期社長が新しい商品の開発や海外事業の強化にコミットし、新しいヒット商品を生み出せるかに注目したい。

連続的にヒット商品が生まれない任天堂

 これまで任天堂は、連続的に新しい商品を生み出し、ヒット商品に続く、次なるヒット商品を実現することに苦戦してきた。

 それは、岩田前社長の経営を振り返るとよくわかる。02年に創業家出身の故山内溥氏から社長のバトンを引き継いだ岩田氏は、インターネットへの接続機能を持つWiiを発売し、業績を拡大した。同時に、岩田氏はスマートフォン向けのコンテンツ開発などを強化するのではなく、得られた収益を既存ビジネス(Wii)の強化に投入した。この背景には、ゲームのプログラマーとして活躍してきた岩田氏のこだわりや自信があったのだろう。

 どのヒット商品にもいえることだが、ブームが冷めるにつれて、人気には陰りが出る。需要が右肩上がりで増え続けることはあり得ない。任天堂も、この問題に直面した。リーマンショック後、Wiiの需要が一巡するにつれ、同社の業績は伸び悩み、低迷し始めた。岩田氏は「3DS」の投入によって挽回をはかったが、思った成果は挙げられなかった。この結果、2012年3月期~14年3月期まで、同社は営業赤字に陥った。

 当時、任天堂はWiiの成功体験に浸ってしまったといえる。任天堂はWiiを中心に当面の収益の獲得を追求した。それは、次なるヒット商品の誕生に向けた新しい商品の開発や、新しい事業分野の開拓に向けた取り組みが遅れたことともいえる。その結果、スマホゲームの台頭という環境変化への対応が難しかった。

 挽回を目指してDSのアップグレード版である3DSが投入されはしたものの、Wiiを上回るおもしろさ、驚き、わくわく感を消費者に与えることは難しかった。それは、既存商品にはない満足感を与えられるだけの商品が開発されていなかったということだ。ゲーム機の開発戦略をもとに同社の業績を考えると、複数の新商品の開発を進め、状況に応じて商品を市場に投入できる、分散されたプロダクト・ポートフォリオを整備することが求められる。

Nintendo Switchに依存する当面の業績

 Wiiのヒットに続くゲーム機を開発できなかった任天堂は、海外事業のリストラによってコストをカットし、生き残りを図った。その後、同社の業績回復に貢献したゲーム機が、Nintendo Switchだ。

 2017年に発売されたこのゲーム機は、Wiiや3DSの後継機ではない。まったく新しいコンセプトに基づいている。据え置き型のゲーム機としてだけでなく、携帯型のゲーム機としても遊ぶことができる。一時、小売店ではSwitchの品切れが相次いだ。また、中古品の価格が新品を上回る逆転現象も起きた。それほど、人気が出た。このヒット商品の登場が、同社の業績回復を支えている。

 足許、逆転現象は解消されてきた。それは、Switchのブームが冷めつつあることの表れだ。いまだ人気はあるが、発売直後ほどではない。当面のSwitchの競争力を高めるために、関連する機器やコンテンツの強化を任天堂は重視している。「Nintendo Labo(ラボ)」の発売は、そのひとつだ。同社は、人々が継続してSwitchで遊び続ける環境を目指して、関連するモノやサービスの開発に注力するものとみられる。

 Switchを軸に当面の業績を拡大しようとする発想は、Wiiのヒットをもとに、それに関連するプロダクトや後継機の開発を目指したことと大きく変わらない。現時点で、Switch以上のゲーム機を開発し、既存機種からの買い替えを含めた需要を創造しようとする経営の意識が強いとはいえない。Switchが消費者に支持される間は関連するプロダクトの販売などによって収益を確保することはできるだろう。問題は、Switchが飽きられてしまうと、業績の拡大が難しくなることだ。

 現在、スマートフォンを使ってゲームを楽しむ人は多い。次々に、より高性能なスマートフォンなどのデジタルデバイスも発売されている。任天堂にとって代替品の脅威は高まっていると考えるべきだ。そのなかで競争に勝ち残るためには、既存の事業から獲得された資金を、新しいプロダクトの開発などにも投入し、より革新的なゲームの開発を目指すことが必要だ。

次期社長に求められる改革

 6月末、任天堂では君島氏が社長を退任し、経理部門や経営企画畑を歩んできた古川氏が社長職を引き継ぐ。次期社長に求められるのは、変化が加速するなかで持続的な成長を実現することだ。求められるのは、新しいゲーム機の開発だけではない。ゲーム機以外の事業を収益の柱に育てることも必要だ。

 ゲーム機の開発は当たればよいのだが、ヒット商品の開発はそれほど容易なことではない。新型機を開発しても、それが必ずヒットするとは限らない。任天堂は、人気の陰りをカバーする新しいプロダクトや他の事業を育てることができなかった。ヒット商品の有無によって業績が乱高下するのは、ある意味、仕方なかった。その経営を“ばくち的”と評する市場関係者もいる。

 今後は、新しいゲーム機の開発体制を強化することが求められる。加えて、スマートフォン向けをはじめとする、デジタル関連の事業を強化することも有効だ。特に、中国市場への参入は重要だ。17年まで中国のゲーム市場は3年連続で世界のトップに君臨している。当面、拡大トレンドが続くだろう。なかでも、中国のモバイルゲームの競争力は高まっており、東南アジアでも人気が出ている。

 任天堂のメインキャラクターである“スーパーマリオ”は、世界的に人気がある。その強みを生かして、現地企業と協力して中国のモバイルゲーム市場に参入する意義は大きいだろう。そこにバーチャルリアリティなどのテクノロジーを加え、中国などでの需要を発掘するなど、さまざまな可能性がある。

 これまで、任天堂の経営は岩田前社長のレガシー(遺産)に支えられてきた。次期社長には、それを活かして当面の業績を維持し、研究開発の強化や、新しい事業分野の開拓が求められる。業績のブレを抑え、持続的な成長を目指すためにも、中国モバイルゲーム市場への参入は、今後の成長基盤の強化に向けた意義ある取り組みのひとつと考える。そうした取り組みが進めば、世界のゲーム市場における任天堂の競争力への期待も高まるだろう。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。
多摩大学大学院

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