6月24日に決まった公募・売り出し価格は3100円で、上場時の時価総額は約1兆円に上り、食品業界3位のアサヒグループHDの約1兆2000億円に迫る。また昨年9月、国内最高額で東証1部に再上場した日本航空の上場時時価総額約7000億円も軽く超える。
株式市場では「今年最大の大型上場案件。業績も好調なので国内外から資金が集まり、市場が活性化する」(大手証券)など歓迎ムードが強い。
サントリー食品の上場はもちろん、直接金融市場からの資金調達が目的。そのサントリーHDが資金繰りに困っているわけではない。11年12月期まで7期連続で増収・増益を達成するなど、業績は堅調に推移しているからだ。
今回の上場の舞台裏を見ると、グローバル時代における私企業のしたたかな生き残り策が見えてくる。
●ままならぬ私企業の資金調達
サントリー食品の発表によると、募集株式数は9300万株。このうち、3350万株が国内募集、5950万株(全株の約64%)が海外募集。これに親会社のサントリーHDのサントリー食品株国内売り出し分2600万株が加わる。募集期間は6月25日から28日まで。なお、上場後のサントリーHDのサントリー食品持ち株比率は約60%になるとみられている。
発行価格1株3100円を基にした資金調達額はサントリー食品募集分2883億円、サントリーHDの売り出し分806億円の計3689億円。
サントリーHDは、このうち約3378億円を金融機関からの短期借入金(過去に実施した企業買収金用)の返済に充て、残りを今後の海外企業買収などの戦略投資に充てる模様。
「株式非上場が社是」とまで言われたサントリーHDが、それを自ら破るように株式上場の本格的な検討を始めたのは2008年といわれる。キリンHDが豪州乳業大手・デアリーファーマーズを約840億円(当時)で買収した時期と重なる。
当時のサントリー株式会社も08年にニュージーランドの清涼飲料大手・フルコアグループを約750億円(当時)で買収。翌09年も、持ち株会社に移行したサントリーHDが仏清涼飲料大手・オランジーナ・シュウェップスを約3000億円で買収している。
証券大手関係者によると、サントリーHDは11年も仏清涼飲料大手・ダノンのミネラルウォーター事業買収に動いたが、この時は資金不足で買収を断念したという。
海外事業の拡大につれ、従来の社債発行や銀行借り入れでは資金調達がままならなくなったのだ。
●私企業の自由さと資金調達難のジレンマ
こうした経緯から、サントリーHDの佐治信忠会長兼社長は、ついに株式上場を決意したといわれている。
その結果、サントリー食品の株式上場が決まったが、この上場計画が明らかになった当初、株式市場関係者の間では「なぜHDではなく食品なんだ」と、驚きの声が上がった。
市場では「親会社は上場するが子会社は上場しない」が半ば常識だからだ。実際、東証で「親会社が非上場で子会社が上場」のケースはわずか24件。全体の約1%にすぎない。しかも、その大半は時価総額が100億円未満。サントリーHDのような大企業のケースは極めて異例といえる。
この型破りな上場計画は「ユニークなサントリーらしい」(市場関係者)といえばそれまでだが、そこには「サントリーらしい私企業の生き残り策がある」(業界関係者)と見るのが的確なようだ。
つまり「私企業の経営の自由度を守りつつ、直接金融市場から資金調達できる方法はないか」と考え、導き出した解がサントリー食品の上場といえる。
サントリーHDの株式の約90%は、創業家(鳥井家と佐治家)が保有している。もし、親会社のサントリーHDが上場すれば、創業家が保有株の一部を市場に放出するか新株を発行するかになり、いずれの場合も創業家の持ち株比率が下がってしまう。創業家の支配力を保持するためには、サントリーHDの上場ははなからあり得ない相談だった。