ではサントリー食品と並ぶ中核子会社の「サントリー酒類」が上場対象にならなかったのかとの疑問が浮かぶが、それは「祖業を担う子会社」であることから除外されたようだ。
サントリーHDの祖業であるウイスキー醸造は、原料仕込みから出荷まで10年以上の歳月を要する。したがって「四半期単位で業績が問われる昨今に、サントリー酒類の上場は問題外」(サントリーHD関係者)になる。
63年に参入したビール事業が初めて黒字になったのは、参入から46年目の08年12月期。非上場だからなし得た成果といえる。
こうした消去法の結果、サントリー食品に上場の白羽の矢が立ったのだが、内容的にも上場の条件を満たして余りあるものがあったといえる。それを大手証券関係者は「グローバルな事業基盤とブランド力があり、商品開発力の高さもグローバルで一級レベル。今後も高い成長力が期待できる」と説明している。
●避けて通れなかった上場
サントリー食品は、サントリーHDの中で国内外の飲料・食品事業を担う子会社。コーヒー飲料「ボス」や緑茶飲料「伊右衛門」など競争力の高いブランドを持ち、国内飲料シェアは約20%でコカ・コーラグループに次ぐ2位。
12年12月期の連結営業利益は584億円で、キリンビバレッジ(39億円)やアサヒグループHD飲料部門(102億円)を大きく上回る。サントリーHDにとっても、連結売上高の約50%と同営業利益の約70%を稼ぐ大黒柱的存在だ。
海外事業でも、サントリーHDのエンジン役になっている。
サントリーHDの海外売上高は、直近の12年12月期で3833億円。このうち、飲料・食品事業が約3300億円で、海外売上の86%も占めている。サントリー食品の傘下には、欧州でコカ・コーラと並ぶシェアとブランド力を持つオランジーナ、北米でペプシ系ボトラーのペプシ・ボトリング・ベンチャーズなどの強豪が名を連ねている。
これからの飲料・食品事業の成長を牽引する海外市場で、すでに地盤をしっかり固めているのだ。
同社はまた、昨年12月に15年12月期を最終年度とする中期経営計画(中計)を発表している。それによると、売上高9844億円、営業利益767億円が12年12月期の実績。これを売上高、EBITDA(営業利益、減価償却費、のれん償却費の合計)共に年平均5%のペースで伸ばし、最終年度に売上高1兆1396億円、EBITDA1556億円の目標を立てている。
市場が縮小傾向にある国内市場のみでこの数値目標を達成するのは、言うまでもなく不可能。同社は中計で「積極的なM&A戦略推進により、東南アジア、アフリカ、南米などの新興国市場で事業展開を加速させ」と、海外事業拡大を明示している。このための資金調達をする上でも、同社の上場は避けて通れなかったといえそうだ。
●上場により「やってみなはれ精神」に影が差す恐れも
一方、サントリーHD関係者は「挑戦し続ける社風を保持できるのが、非上場のメリット」と口を揃える。
創業者・鳥井信治郎の口癖だった「やってみなはれ精神」に社員たちが奮い立ち、利益追求は二の次で粘り強く頑張り続け、成果を生み出した製品は枚挙にいとまがない。
だが、株主の利益に配慮をしなければならないサントリー食品の上場は、こうしたサントリーHDの「やってみなはれ精神」に悪影響を及ぼしかねないというのだ。
そのリスクを、どのように回避するのか? “やってみなはれ上場”に挑むサントリーHDの今後に、注目が集まっている。
(文=福井晋/フリーライター)