人工知能やビッグデータなどの技術革新によって、今後の私たちのビジネスが大きく変わっていくことは想像に難くない。
では、そうした時代を迎えるにあたり、成長する組織と没落する組織の違いはどこに生まれるのだろうか。その答えを探るには、違いの輪郭がはっきりと見えつつあるアメリカの事例がおおいに参考になる。
アメリカでもっとも高い評価を受ける技術・経営コンサルティングのひとつであるブーズ・アレン・ハミルトンのジョシュ・サリヴァン氏とアンジェラ・ズタヴァーン氏による『人工知能時代に生き残る会社は、ここが違う!』(集英社/ジョシュ・サリヴァン、アンジェラ・ズタヴァーン著、尼丁千津子訳)では、企業が飛躍的な成長を遂げるためのリーダーの条件がつづられている。
この連載では、本書を手がかりに人工知能時代のリーダーの条件を伝えていく。第3回のテーマは、「組織を変革するリーダーの条件」である。
積み重なっていた、無駄と非効率の山
本書で述べられているのは、リーダーがいかにマシンテクノロジーと共に組織や企業の成長を導くかということだ。しかし、多くの場合、組織には「抵抗勢力」となり得る集団がいるものだ。
2020年に行われる国勢調査に向けて、ポトック氏は同局の変革と調査員の業務遂行方法という2つの見直すべき対象について戦略を立てた。
主な内容は、局全体での統一プラットフォーム利用を目指した統計データ処理方法の大幅な再構築、効率性改善のための運営データの利用を目指したモデルの構築、手作業の削減を目指した技術の活用といったものだ。そして、20年の国勢調査で約50億ドルの経費削減を達成することを目標に定めた。
実は、アメリカの国勢調査には無駄と非効率の山が積み重なっていた。見直しの一例が、30万人以上の戸別調査員による住人への聞き取り調査である。これまでは、戸別調査員がクルマに乗り込み、直感や偶然で訪問先を決めていた。つまり、いつどんな順番で調査するかは調査員に任されていたのだ。
しかし、留守で何度も戸別訪問をすることも多く、そのため全戸別調査員の総移動距離はアメリカの道路総距離の5倍を記録していた。かさむのはガソリン代、時間、そして労力である。
「伝道者」になるための3つの目標
ポトック氏は、この部分にメスを入れる。マシンインテリジェンスの導入に向けて動き、劇的な効率化への道筋を立てることに成功したのである。
しかし、10年の段階でも携帯機器を導入する計画はあったが、予算が莫大なものになっていた。なぜ、ポトック氏は新しいテクノロジーを導入できたのだろうか。
まず、ポトック氏は「リスクを嫌う」という組織の根本的な問題に直面した。間違いが起きると、同局のリーダーたちが連邦議会議員に非難されることが常だったからだ。しかし、リスクを取らなければ新しいテクノロジーは導入できない。
『人工知能時代に生き残る会社は、ここが違う!』 技術が飛躍的に進歩して、膨大なデータを解析して新たな事実を発見したり、埋もれていた細かい事例をすくいあげることが可能になった。しかし、その技術をどう生かすかは、人間の発想次第だ。常識や制約にとらわれないアイデアを生み出し実現させているリーダーたちのひらめきは、どこからくるのだろうか。