働き方改革の一環で、このほど国会で導入が決まった高度プロフェッショナル制度は、年収1075万円以上、一部の業種の人を労働基準法による労働時間、休日等の規制の対象外にする法案だ。同法は残業代の支払いが不要になることから“働かせ放題”法案などとも揶揄される。
現行では年収1075万円以上の労働者を対象にしているが、すでに日本維新の会は年収要件を700万円まで切り下げることを提言している。自民党部会でも「小さく生んで、大きく育てる」との方向性が示されている。それだけに早晩、年収要件が引き下げられて対象者が拡大する可能性は高い。
アベノミクスにより日本経済は好景気になっているといわれるが、足元では労働者の賃金がいっこうに上がらず、消費は拡大していない。そうしたなか、2018年3月期の有価証券報告書の内容が発表されて注目を集めている。有価証券報告書は事業年度ごとに企業業績を外部に情報開示する書類で、10年からは年間1億円以上の報酬を得ている役員の氏名も記載・公開されるように内閣府令が改正された。
この内閣府令改正にあたって、経済界は「個人のプライバシー」を理由に一斉に反発。報酬額が開示されると役員報酬を受け取りにくくなり、役員になろうとする人が減るなどと主張していた。しかし、亀井静香金融相(当時)は反発の声に耳を貸さなかった。亀井氏は上場企業のコーポレートガバナンスを強化するためにも情報開示の必要性を説き、「役員はがんばって業績を上げ、1億円以上の高額報酬を得る役員は胸を張って堂々と受け取ればいい」と取り合わなかった。当時の様子を経済誌記者は語る。
「それまで役員報酬はブラックボックスだったので、不振に喘ぐ企業でも高い報酬を得ている役員がいるのではないかと思われていたんです。実際、氏名が記載・開示されることになり、自分の報酬を知られたくない経営陣はかなり多かったようです。そのため、1億円にギリギリ届かない金額に調整したという話もありました」
経営者と労働者の収入格差が鮮明
これまで、経営陣の報酬が公開されることはあっても、会長や社長といった一部のトップにとどまっていた。内閣府令が改正された直後は、1億円以上の報酬を得る役員は少なかった。ある意味で慎み深かったといえる。しかし、役員報酬のあり方にも変化が生じ、民主党(当時)から自民党に政権交代すると、役員報酬の高額化は一気に進んだ。