不特法が内包する問題点
投資にはなんらかのリスクがあるものだが、TATERU問題では、本来の投資で許容するべきリスクではなく、別にその問題の本質があるように思える。それが不特法にあるのではないかと筆者は考えている。というのも、不特法自体が問題を内在しているように思えるからだ。不特法は、投資家から集めた資金で取引した不動産の収益から配当を分配し、最後(ファンド解散時)には、取得した不動産に付加価値が付くなどして取引時点の価格以上になっていることが前提になっている。
たとえば「TATERU Funding」なら、クラウドファンディングによって資金を集め、アパートを建設または既存物件を購入し、一定期間その賃料収入を配当し、最後にはその物件を売却してファンドで集めた資金の元本を償還するという仕組みになっている。特に、TATERUの場合には、ファンドに投資した方に現物の物件を紹介し、購入してもらうことで売却していたと思われ、ある意味ではファンドの投資家を集めつつ、同時にファンドの出口となる投資家を集めていたことになる。
もしファンドの対象物件が建築費用または購入価格以下でしか売却できなかった場合、TATERUが負担しているファンドの劣後部分を超えるほど低い価値であれば、投資家の元本は減ってしまうことになる。不動産価格が上昇している局面であれば、建築や購入時よりも高く不動産を売却することが可能で、問題はない。一方、不動産価格が下がる局面になると、建設費用や購入費用を下回る価格でしか売却できない可能性があり、その場合は事業者(ファンド組成者)が負担を強いられる。少なくとも、その可能性が高くなる。
今、業界も含めてオリンピック前後に不動産価格が下がると、まことしやかに囁かれているが、実際に不動産価格は高値水準のまま止まった感があり、そこにスルガ銀行などの問題が発生した。この問題が起こってから金融機関が不動産への融資を控える傾向が出始めており、さらに融資を引き締めると、そうした予想や噂が現実のものとなる可能性がある。
今回のTATERUの問題の裏には、不特法が内在するファンド組成後、一定の収益の分配、そして不動産価値の増加が前提という仕組みのために、利益を求める企業としてはどうしても早く(遅くともファンドの期限内に)、そして高く(劣後部分が減らない価格で)売却する必要がある。ましてや不動産価格が高止まりしている今なら、上記のような予想や噂を現実に近いものとして、現場で受け止めていてもおかしくない。そのため、売却を急ぐあまり、今回の問題が起こったのではないかと筆者は考えている。
不動産価格が下がる局面で、ファンドのような期限のある投資で(特に短い期間であればなおさら)、途中分配も元本償還もとなると、不動産投資型ファンドの運営は非常に難しい。しかし、不特法は右肩上がりの不動産市況を前提としているので、途中分配も元本償還も可能とする内容なのだ。
少し前だが、不特法の認可に関する相談の段階で、宅地造成のような真の意味で付加価値が生まれる事業に対する出資(投資)を目的とした事業では、途中に分配する賃料などの原資がないので不特法に適さないと判断され、許可が下りないと専門家に聞いたことがある。
年金の仕組みもそうだが、法律や社会制度の基本的な仕組みを右肩上がりの状況を前提にせず、経済状況が悪い時でも生きてくる法律や制度を設計してほしいと願うばかりである。
(文=小林紘士/不動産ジャーナリスト)