コロナ禍で航空会社や旅行代理店が大幅に売上を落とし、その陰で世界各地を紹介する旅行ガイドブック『地球の歩き方』もまた同様に、販売部数がかつてないほど低迷する事態を迎えていた。
しかし、そんな状況下でも発行元の株式会社地球の歩き方は下を向くことなく、従来の旅行ガイドブックとは毛色が異なるアイデア豊かな新シリーズ『旅の図鑑』を次々と展開した。すると、その背表紙一覧を撮ってTwitter上に投稿されたツイートが、“逆境でも生き残るために奮闘している”としてSNS上で話題になっていた。
そこで今回は、『地球の歩き方』がコロナ禍によって受けた影響や、新シリーズを出すに至ったきっかけや裏事情について、編集部に話を聞いた。
コロナ禍で売上は9割減……そこから新シリーズ誕生までの軌跡
まず、コロナ禍以降は売上にどういった影響があったのかを聞いた。
「やはり『地球の歩き方』の売上は旅行者数と連動するところがありますので、コロナ禍以前の売上と比べると9割減の約1割まで落ちました。コロナ禍以前は『地球の歩き方』だけで年間80~90冊の改訂版を発行していましたが、2020年9月以降は一切出すことができていない状態です。
現在は、『地球の歩き方』とは異なる新シリーズ『旅の図鑑』や、以前から展開している『御朱印』『aruco』『島旅』といった各シリーズに力を入れています」(地球の歩き方編集部の福井氏)
その新シリーズ『旅の図鑑』がSNSで話題になった。
「Twitterを通して多くの方に注目をいただけたことに、とても感謝しております。おかげさまで、8月に発売した同シリーズの『世界のすごい巨像』や『世界のすごい城と宮殿』『ふしぎな聖地&パワースポット』にも注目をいただいており、予想以上の反響に編集部一同、大変驚いています。
そもそも『旅の図鑑』発想のきっかけは、20年7月に迎える予定だった東京五輪開会式に向けて、選手入場や競技を見ながら楽しめる本を作ろうとしたところからでした。そして発売となったのが、『旅の図鑑』シリーズの第1号となる『世界244の国と地域』。結果的に東京五輪は延期になりましたが、発売当時は海外旅行に行けない期間が続いていて海外の情報に飢えた方が多くいらしたのと、世界の国や地域を網羅的に紹介した当社初の書籍となったため、多くの読者に注目していただきました。
もともとその1冊で終わるつもりでしたが、『世界244の国と地域』を読んだ読者から“海外に行けないけれど旅気分を楽しめる”とご好評いただいたことで、続刊も企画してシリーズ化することになったのです。海外に取材できないため、創刊以来約40年蓄積した知識と情報網を用いて各国の編集スタッフの協力を得て作っています」(福井氏)
『地球の歩き方』編集部が選ぶ『旅の図鑑』おすすめ3冊
そんな『旅の図鑑』から、おすすめの3冊を紹介していただいた。
「『世界のグルメ図鑑』は、発行してわずか1カ月ほどで3刷まで増刷がかかりました。海外旅行に行けない今、身近に楽しめる『食』というテーマを通して、多くの人が海外気分を楽しみたいという需要があるということを改めて実感いたしました。手前味噌ですが116の国と地域の名物グルメを1760円の書籍1冊で楽しめるのはお得だと思います。
続いて『世界のすごい巨像』はニッチなジャンルではありますが、こちらも発売後すぐに増刷がかかりました。世界中のあちこちでさまざまな意図で作り上げられた巨像は、人々の祈り、憧れ、誇示などさまざまな人間の想いの結晶と解釈できます。そのすばらしさと魅力をまとめた1冊です。
「『世界の魅力的な奇岩と巨石139選』も同じくニッチですが、自然のパワーが生み出した謎だらけの奇岩と巨石を旅人目線で紹介しています。魅力的な絶景写真が多く、世界遺産のスポットも多々あります。見ごたえたっぷりで、旅先選びの本としても活用いただけます」(福井氏)
新シリーズは好調のようですが、従来の旅行ガイドシリーズ『地球の歩き方』のファンからはどういった声が届いているのだろうか。
「『地球の歩き方』を発行できない今、私たちのピンチを察知してくださる読者もいらっしゃって、“『地球の歩き方』を応援したいから買う!”と大変ありがたいお声もいただいています。また、『地球の歩き方』は読み物として楽しめるため、おうちで旅行気分を楽しんだり、いつか行きたい旅先の情報を予習したりするために買ってくださる方もいるため、売り上げがゼロにはなっていないことが大変ありがたいです。
海外旅行はおろか国内移動もしにくい時期が続いておりますが、この状況が一生続くわけではありません。現在、コロナ禍が明けて堂々と海外取材ができるようになったときに備えて、現地の情報収集やシミュレーションをして改訂版発行の準備をしています。『地球の歩き方』はみなさんに応援いただいている限りなくなりませんので、ご安心いただければと思います。
おかげさまで、『地球の歩き方』は創刊42周年を迎えることができました。海外取材ができていた頃、同書を持っている方を見かける機会があると毎回心のなかで感謝の思いを送っていました。現在、創刊以来の窮地であることは間違いないですが、編集部一同、前向きに今できることを考えながら頑張っています。これからも、今まで以上に、海外旅行を愛するみなさまに役立つ情報を提供していくことをお約束いたします。
よろしければ、新刊情報を発信している『地球の歩き方編集部』のTwitterやInstagramをフォローしてください。そちらに欲しい情報や読みたい本について意見を寄せていただければ、新刊のアイデアとして前向きに検討いたします。今後の新刊を楽しみに、これからも応援していただけるとうれしいです」(福井氏)
『地球の歩き方』編集部は、コロナ禍で追い込まれた窮地のなかでも、前向きに取り組む気持ちを忘れずに書籍作りに勤しんでいるようだ。
(文=二階堂銀河/A4studio)