日本で“一番元気な”営業部隊を抱えて、アフターファイブの遊び方にかけてはどの大企業にも負けないというリクルートが移転した結果、実は銀座8丁目界隈の飲食店の経営に、結構な影響が出てしまっているのだ。なんらかの起爆剤が欲しい銀座の街と、銀座を大人の遊び場として復活させたいという俺の株式会社の坂本社長のコンセプトが、ここで一致することになる。
銀座に集中する店舗のうち、後から出店した4店舗では驚愕の低価格料理に加えて、ジャズの生演奏の設備が置かれ、毎晩、「俺の銀座ジャズ倶楽部」のメンバーによるライブが行われる。それもミュージックチャージは300円という低価格でだ。
ここでもドミナント戦略の意味が出てくる。4店舗の立地が近いので、場合によってはミュージシャンの掛け持ちが可能になるわけだ。そう考えれば、ミュージックチャージが割安に設定できることも納得できる。そして、銀座の夜がまた楽しくなるという好循環が起きるようになる。もちろんソムリエやギャルソンといったホールスタッフの採用や配置転換、ヘルプでの人材の融通も、地域にお店が密集していればやりやすくなる。
●行列も経営資源として有効活用?
さらに言えば、行列をつくる顧客にも、ドミナント戦略はメリットがあるのだ。この地域で最も人気が高い「俺のフレンチGINZA」の予約は毎月1日午前10時に始まるのだが、電話が殺到し、なかなかつながらないため、最近では店舗に直接出向いて予約を取る人が増えている。
知人がその情報をもとに1日の午前中に予約を取りに銀座に行ったところ、なんとお店の前にはすでに40名ほどの行列が、予約を取るためだけの目的でできていたそうだ。その行列に並ぶ時間はない。ところがほかにも銀座には「俺のフレンチ」があることを知っていた彼は、その足でそちらの店舗に向かうことで、無事予約が取れたという。
お店が混んでいれば、そこに来た顧客は他店に流れてしまう。しかしドミナント戦略なら、系列の別のお店に顧客を案内することができるようになる。つまり、行列も経営資源として有効活用できるのである。
ちなみに「俺のやきとり 銀座9丁目」開店のレセプションでは、坂本社長より今後の出店計画が披露された。次は青山、六本木そして赤坂に出店するらしい。ということは私の読みでは、銀座でのドミナント戦略が一段落した後は、東京メトロの銀座線・日比谷線沿線でのドミナント戦略に移行する……といえそうだ。
つまり銀座-新橋-赤坂見附-表参道というラインと、銀座-神谷町-六本木-恵比寿というラインの2つの線でドミナンスが形成されていく。本社も銀座に移転したので、この線で拡げる店舗戦略は、経営効率もいいはずだ。
このようにドミナント戦略の実例としても面白いだが、「俺の」シリーズのお店が増えていくというのは、一グルメの立場としては非常にうれしいことである。
(文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)