第2四半期の決算説明会の場で、安川電機はスマートフォン分野での需要に関して、生産の増加や設計変更の動きが見られないため期待していない、とのコメントを残した。つまり、新しいヒット商品を開発し、需要を取り込もうとするIT先端企業の動きが弱いということだ。
また、中国でのロボット受注も想定に届いていない。同社は在庫の増加を抑えるために生産調整を進めている。それが収益計画の下方修正につながっている。背景には、昨年の受注の伸びが想定外に強かったことがある。まさに反動減だ。加えて、米中の貿易戦争を受けて、今後の設備投資を慎重に考える中国の企業が増えていることも軽視できない。中国における安川電機の顧客のなかには、資金繰りが悪化し代金の支払いが遅れる企業も出始めている。
イノベーション停滞の懸念
今回の安川電機の業績見通しは、同社の経営先行きだけでなく、半導体需要をはじめ世界のIT先端分野のイノベーションを考える上で重要だ。これまでは、スマートフォンや省人化投資など、新しい取り組みが増えてきた。それが、同社の業績拡大を支えた。
特に、昨年、安川電機の中国における受注は毎四半期、前年同期比ベースで40%程度も増加した。それだけ、ネットワークテクノロジーを駆使し、新しい商品の開発や生産プロセスの改善に取り組む企業が多かった。現在の中国企業に安川電機と同等の性能を持つ製品を生み出す力が不足していることも見逃せない。
しかし、2018年第1四半期の中国における受注は6%増に鈍化した。第2四半期はマイナス9%と急減した。受注の急減から読み取れることは、新しい取り組み(イノベーション)の停滞だ。中国を中心に、先行きに自信が持てず攻めから守りにスタンスを変える企業は増えている。
その主な原因が米中の貿易戦争だ。貿易戦争には、米国と中国の覇権争いの側面がある。トランプ政権は、IT先端分野における中国の台頭を抑えたい。そのために、米国は産業ロボットや半導体などの中国製品に関税をかけた。また、米国は中国のIT企業であるZTEにも制裁を加えた。今後、知的財産権の侵害などを理由にトランプ政権が中国のIT企業に制裁を加えることも考えられる。短期的に、中国経済の減速懸念は高まりやすい。
中国における受注動向を見る限り、安川電機の業績拡大ペースは鈍化する可能性が高まっている。また、長期間にわたって同社が中国市場での優位性を維持することも難しいだろう。長い目で見ると、中国は自力でIT機器を生産し、それを輸出することを目指すと考えられるからだ。
中国の需要がピークアウトする懸念が高まるなか、安川電機は新しい取り組みを進め、より高性能な動作制御機器などを生み出さなければならない。従来にはない分野への進出も必要だろう。その意味で、同社は改革を進めるべき局面を迎えたといえる。これまでに得てきたフリーキャッシュフローを活かし、同社が新しい取り組みを進めることを期待したい。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)