ワタミの渡邉美樹会長兼グループ最高経営責任者(CEO)が12年ぶりに社長に復帰する。10月1日付で会長兼社長に就任し、清水邦晃社長兼最高執行責任者(COO)は代表権を持つ副社長になる。渡邉氏が社長を務めるのは2009年以来。コロナ禍で居酒屋を中心に苦戦が続くなか、権限を集中し、意思決定のスピードを上げる。
渡邉氏は1984年、ワタミを創業し、2009年、会長になった。13年に全役職を退き、参院議員を1期6年務めた。「ワタミには100%戻らない」とまで公言していたが、会長に19年に復帰していた。経営の最前線への復帰はオーナー経営者としての危機感の表われである。
渡邉氏は「夕刊フジ」に「経営者目線」というコラムを連載している。8月28日付「ワタミ『ワクチン接種済バッジ』で接客 12年ぶり『社長復帰』の理由」では、経営は緊急事態だとし、構造改革の狙いを明らかにした。
<「焼肉の和民」や「ワタミの宅食」など8つの営業系の事業本部長を、実質のCOO(最高執行責任者)と位置づけ、意思決定権を大幅に拡大させスピード経営を実現することが狙いだ。アフターコロナのV字回復において、8つの事業部の8つの夢を追う、強い体質を意識した。もう一つの狙いはワタミが最重要と位置付ける「人材」への寄り添いだ。居酒屋を中心に店舗休業が続き、多くの社員が不安を抱えている。かなり深刻だ>
4~6月期は2年連続の赤字
21年4~6月期決算は売上高が前年同期比9.9増の139億8200万円、営業損益は20億5000万円の赤字(20年4~6月期は37億2200万円の赤字)、最終損益は17億5300万円の赤字(同45億5000万円の赤字)だった。「和民」を中心に居酒屋チェーンを国内外で展開するほか、高齢者向けに弁当などを宅配している。宅配事業は堅調だが、国内外の外食事業は苦闘が続いている。
時短協力金や雇用調整助成金などコロナ関連で8億円の営業外収益を計上した。6月末時点の自己資本比率は26.8%と3月末の7.1%から改善した。日本政策投資銀行(DBJ)に優先株の第三者割当増資を行い、120億円を調達した。22年3月期通期の業績予想は「新型コロナウイルスによる影響を合理的に算定することが困難」として引き続き未定とした。
「焼肉の和民」と「から揚げの天才」が脱居酒屋の二本柱
渡邉氏はコロナ禍にどう立ち向かおうとしているのか。夜の営業が中心の居酒屋はハンバーガーチェーンなど他の外食と比べて客の戻りが鈍い。渡邉氏はポストコロナ時代の居酒屋は7割程度まで縮小すると予測している。そこで家族や女性が利用しやすい業態の開発を進める。
ひとつが「から揚げの天才」。揚げたてのから揚げと、実家が玉子焼き店を営むテリー伊藤氏のノウハウを掛け合わせた店だ。18年11月、大田区梅屋敷に1号店がオープンした。19年4月、一般社団法人日本唐揚協会が実施した全国の唐揚げ店人気投票企画「第10回からあげグランプリ」(東日本しょうゆダレ部門)で金賞を受賞した。
テイクアウト・デリバリーが主体の「から揚げの天才」を軸にフランチャイズ(FC)出店を加速する。21年3月期末の92店を22年3月期に200店に増やすことを計画している。から揚げはブームで多くの外食企業が参入しており、かつてのタピオカブームの二の舞になる恐れは否定できない。
もうひとつの柱が焼き肉。20年10月、「焼肉の和民」の1号店、大鳥居駅前店(東京・大田区)が開店した。「和民」全店をはじめとして120店を「焼肉の和民」に転換する。21年3月末は23店舗だったが、22年3月期には32店を新たに焼き肉店にする。焼き肉食べ放題の新業態「上村(かみむら)牧場」は20年5月、第1号店「京急蒲田第一京浜側道店」(東京・大田区)を出した。21年3月末は3店舗だが22年3月期は32店に増やす。焼き肉は米国や中国など海外進出を目論んでおり、将来的には焼き肉店は国内外で700店舗を目指す。
長男へ事業をバトンタッチ
渡邉氏の経営の第一線への復帰は、長男の渡邉将也氏の事業承継を意図したものとの見方が多い。将也氏は1987年生まれで現在33歳。サントリースピリッツ(東京・港区)やビームサントリー(シカゴ)で修業を積んだ。サントリー酒類は10.22%の株式を保有するワタミの第2位の大株主だ。
2019年に会長に返り咲いた渡邉美樹氏は就任3カ月後に長男を執行役員海外事業本部長に昇格させた。その半年後に取締役に就け、さらに21年4月1日、No.3のポストである取締役CFO(最高財務責任者)兼上席執行役員にした。
将也氏は渡邉氏の資産管理会社アレーテーの代表を務めている。アレーテーは3月にワタミの第三者割当増資を引き受け、10億円を出資。保有比率を28.29%まで引き上げた。アレ―テーおよび将也氏の支配力を強める狙いが透けて見えた。10月1日からの渡邉美樹会長兼社長の新体制ではCEO、COO職を廃止し、渡邉氏に権限が集中する。「焼き肉」への業態転換が順調に進めば、長男の将也氏へのバトンタッチが早まることになるとみられている。
(文=編集部)