2%物価目標を達成するため、日銀は2013年4月から異次元緩和(量的・質的金融緩和)をスタートしたが、5年を超えても、いまだに達成する見込みは立たない。現在に至るまで、2014年10月に追加緩和、2016年1月にマイナス金利を導入する等、さまざまな対策を実行してきたが、異次元緩和の限界が明らかになる一方であった。
このような状況の中、日銀は、金融政策の重心を「量」から「金利」に移す政策変更を行うため、2016年9月下旬、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」に舵を切り、現在に至っている。いま金融政策の重心は明らかに「金利」であり、日銀は、国債オペレーション等を通じて、短期金利をマイナス0.1%、長期金利(10年物国債の利回りに相当)を0%程度に制御する政策を実行している。
問題はこの政策がいつまで継続できるかだ。大規模金融緩和の副作用や歪みがどこかに潜んでいないのか。筆者は少なくとも2つの副作用や歪みがあると考えている。
第1は、財政規律の弛緩だ。通常、財政赤字の拡大や債務の累増で財政が悪化すれば、市場メカニズムで長期金利が上昇し、利払い費の増加を通じて、それは財政を直撃する。しかし、現在のところ、長期金利が上昇する気配はない。政府部門の債務残高(対GDP)は200%超も存在し、いまも増加を続けているにもかかわらず、見かけ上、日本財政は安定している。
この理由は単純で、日銀の大規模金融緩和で長期金利の上昇圧力が抑制され、債務の利払い費が抑制できているからである。それは財政的に居心地がよい状況だが、政治的に財政規律を弛緩させ、財政再建や社会保障改革を遅らせてしまい、いつか長期金利が上昇し始めたときに顕在化する財政危機の「マグマ」を蓄積してしまう可能性がある。
金融機関の収益悪化
第2は、超低金利の長期化で進む金融機関の収益悪化だ。たとえば、銀行の本業は預金を集め、資金を必要とする企業等に貸し出しをすることだが、その収益は貸出金利と預金金利の「利ざや」で決まる。預金金利は短期金利、貸出金利は長期金利(10年物国債の利回りに相当)に連動する傾向があるが、日銀の大規模金融緩和により、長期金利と短期金利の「利ざや」が縮小している。この結果として、貸出金利と預金金利の「利ざや」も大幅に縮小しており、銀行など金融機関の収益が悪化している。特に、体力の弱い地域銀行の収益が急速に悪化している。