仮想通貨など金融を支える新たな基幹技術として注目されているブロックチェーン。その「改ざんが限りなく不可能に近い」という性質は、金融以外のさまざま分野にもメリットをもたらすと考えられている。今回、興味深いケースのひとつに、ブロックチェーンを使って、ブラック企業、またさらにそれよりもひどい“漆黒企業”の退治を実現しようという動きが現れた。
1月17日、IBMはLG化学、フォード、華友鈷業(Huayou Cobalt)、RCSグローバルと共同で、「人権を蹂躙せずに倫理的に生産された鉱物資源」を追跡・認証するためのネットワークを構築していくと発表した。一体、どういうことだろうか?
スマートフォンなど、電子製品に使用されるリチウムイオン電池の原料となる鉱物資源「コバルト」の需要は増し続けているが、人権団体・アムネスティの報告によれば、主な採掘場となっているコンゴの鉱山などでは、10歳にも満たない幼い子どもを含む、約11~15万人の労働者が有害かつ過酷な環境で労働を強いられているという。人権団体がたびたび勧告や告発を行ってきたものの、グローバル企業に納品する仕入元は労働環境および人権保護基準を受け入れず、依然として労働者の環境が改善されないという現状がある。
そこで浮上したのが、ブロックチェーンを使った生産状況追跡ネットワークというアイデアだ。今回のプロジェクトでは、コンゴの華友鈷業のコバルト鉱山で生産されたコバルトが運搬され、韓国・LG化学のバッテリー生産工場を経て、米国・フォードの工場に到るまでの過程を追跡する。つまり、鉱物原料が採掘現場からメーカーに渡るまでの採掘・加工データがブロックチェーンに記録され、倫理的な過程を経たものか否か、第三者がチェックできるということになるのだ。
なお華友鈷業は、過去にアムネスティによって告発を受けた企業のひとつである。その非を認め、仕入元に改善を求めてきたが、状況があまり進展しなかったので、今回のプロジェクトに参加する形となったという。
グローバル企業の“ポーズ”に過ぎない?
IBMは、今回のプロジェクトが成功すれば、コバルト以外の原料のチェックにも範囲を拡大しつつ、その対象を自動車、航空宇宙、防衛、消費者家電などさまざまな産業にも広げていく計画だと説明している。
同様の試みは、コカ・コーラもすでに開始している。同社では、ブロックチェーン上に、労働者を登録するシステムを構築。砂糖の原料を供給する28の地域の児童労働の現状を調査し終えているが、今後、労働契約が遵守されているかブロックチェーン技術で監視する体制を築いていくとしている。
ブロックチェーンと労働環境改善、あるいはブロックチェーンと人権保護へ取り組みはまだまだ始まったばかりであり、グローバル企業のイメージ改善のためのポーズに過ぎないという声もあるかもしれない。もちろんそういう側面も多分にあるというのは否めないだろう。しかしながら、労働契約や労働時間、労働内容などを働き手が納得いく形で記録し、改ざんできないようにするブロックチェーンの仕組みというアイデアは、非常に画期的であることは間違いない。
労働者に関する法律やその権利がきちんと守られた環境下で生まれた製品やサービスを、第三者が確実にチェックでき、かつ選択して購入できるというコンセプトは非常におもしろい。ある製品が異国もしくは自国の労働者の血や涙でできているということがわかれば、その製品の人気は下がっていくであろう。逆に「安心人権印」が付いているととなれば、消費者も気持ちよく購入することができるはずだ。
そのように、労働者の労働環境が守られた製品が価値を得る社会に変化していけば、働き方改革もおのずと実現していくだろう。逆に効率性や人を大事にしないブラック企業は、自然と没落していくしかなくなる。人間の意志や上からの大号令ではなく、ブロックチェーンといった新しい技術によって労働の質が変化する。そんな未来が、あり得るのかもしれない。
(文=河 鐘基/ロボティア編集部)