足許の世界経済を支えている米国経済は、緩やかな回復基調を維持している。2019年の前半は緩やかな景気回復が続く可能性はある。ただ、過去の景気循環や、スマートフォンの売れ行き不振を考えると、年後半以降は米国経済の減速が鮮明化する可能性がある。その展開が現実のものとなれば、これまで以上に世界のIoT投資や自動車販売にはブレーキがかかるはずだ。
過去の経験が当てはまるとは限らない
2018年後半、日本電産の株価は貿易戦争などへの懸念におされて下落した。1月17日、永守氏が業績予想を下方修正したのち、同社の株価は反発した。理由は、悪材料の出尽くし期待から同社株の反発を期待した投資家の買い注文があったからだ。過去、業績見通しが下方修正された後に日本電産の株価は反発してきた。永守氏の経営手腕、保守的な業績見通しなどを理由に、今回も同社の業績が底を打つタイミングは近いと期待する市場参加者は少なくない。
この考えは早計だ。まず、経済の環境が違う。これまで日本電産が業績予想を下方修正した環境は、世界全体の景気が底を打ってからあまり時間が経過していなかった。それに比べ、足許の世界経済は、循環上のピークに近づいている可能性がある。
政治リスクも高まっている。政治の動向は議会の意思決定や投票の結果を見なければわからない。特に、米国は中国によるIT知的財産の侵害が国家の安全保障の問題であると考えている。この見解は、共和党にも民主党にもみられる。米国の対中強硬姿勢はさらに強まる可能性がある。そのなかで、政治実務経験のないトランプ大統領が事態を収拾できるとも考えづらい。長い目で見ると、米中の対立は激化する恐れがある。
このなかで日本電産の業績に関する悪材料が出尽くし、株価が上昇基調で推移すると考えるためには、かなりの成長期待が必要だ。その期待を正当化できるか否かを、わたしたちは冷静に考える必要がある。
中国政府が景気対策を強化してきたにもかかわらず成長率が低下していること、米中貿易戦争の先行きなどを考えると、世界的にみて企業の設備投資や新商品開発が従来以上のモメンタム(勢い)で拡大するとは言いづらい。日本電産の創業以来、トップを務めてきた経営者が「尋常ではない」と表現するほどの世界経済の変化の影響は、冷静に考えたほうが良いだろう。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)