東芝は、2018年11月9日~30日の期間に、東京証券取引所の立会外取引と通常の取引で総額6849万株、2576億円分の自己株式を取得。さらに12月、1カ月間で1076万4000株、368億円分を追加取得した。
18年11月9日~19年11月8日の間に最大2億6000万株、7000億円を上限に自社株を購入する計画。毎月末時点での取得状況を公表する。保有していた6600万株強の自己株を18年12月25日に消却した。発行済株式総数の10.1%に相当する。自社株買いした株式が再び市場に再放出される懸念を払拭するのが狙いで、今後も消却を続ける方針だ。
取得した自己株式は12月末時点で、金額ベースで2944億円となり、7000億円の枠のうち57.9%が未消化となっている。
17年末に6000億円の大型増資を引き受けた海外ファンドなどが、自社株買いに応募すると想定していたが、「株価はさらに上昇する」とみているファンド勢は応募しなかった。海外ファンドは、株価をもっと引き上げるよう要求する。東芝の経営陣は株高を続ける施策が強く求められている。
自社株買いによって、うるさ型のファンドに退出してもらう腹づもりだったが、そう甘くはなかった。これからも、「物言う株主」との虚々実々の駆け引きが続くことになる。
ファンドの圧力に屈した東芝
そもそも東芝が自社株買いに踏み切ったのは、海外投資ファンドの圧力に屈したからだ。東芝は、米国の原発子会社ウエスチングハウスと同グループの再生手続きによる損失などで、17年3月期に5529億円の債務超過に陥った。債務超過を解消するため17年12月、6000億円の第三者割当増資を行った。
第三者割当増資を引き受けた海外のヘッジファンドや物言う株主は、揃って巨額の株主還元を求めた。東芝は「東芝メモリ売却で危機を切り抜けた後に、株主に還元する」と公約した。
だが、18年4月に就任した三井住友銀行元副頭取の車谷暢昭・会長兼最高経営責任者(CEO)は「M&A(合併・買収)が重要」と発言。これにファンド側が態度を硬化させ、株主総会で「車谷CEOの取締役選任議案に反対票を投じる」と東芝経営陣に圧力をかけた。
香港を拠点とする投資ファンド、アーガイル・ストリート・マネジメント・リミテッド(キン・チャン最高投資責任者)は5月28日付で車谷氏に書簡を送り、株主総会前に「1兆1000億円の自己株式買い戻しの実施方針を示すよう」求めた。
それを受けて東芝は6月13日午前に、7000億円の自社株買いを発表した。一度は債務超過に陥った会社が、ここまで巨額の自社株買いを行うのは極めて異例だ。株主総会で車谷氏の選任が否決されることを恐れた東芝は物言う株主の圧力に屈し、自社株買いを実施することにしたと噂された。
東芝メモリの売却で1兆5000億円弱の手元資金が増えた。このうちの4分の3近くをファンド側に戻せとファンド側は迫った。だが1兆1000億円も吸い上げられたら、なんのために東芝メモリを売却したのかわからなくなる。「構造改革費用などを考慮して7000億円に決めた」と理解を求めた。