宗教と音楽の関係
宗教団体が音楽イベントを展開することに違和感を持った方がいるかもしれませんが、宗教と音楽というのは、古くから深く結びついています。日本では、神社の神楽の音楽などが代表的ですが、仏教がインドから中国を経て日本に伝わると同時にインドの宗教音楽も中国経由で日本に伝わり、独自の進化を遂げてきました。これまでは宗教儀式として考えられていた天台声明や真言声明などが、現代作曲家たちによって音楽的にも興味深いと見いだされ、優れた日本音楽としてコンサートホールで演奏される機会も多くなってきており、日本の音楽のひとつとして再評価されています。
実は音楽には、多くの宗教団体に利用されながら大きく発展してきた側面があります。
現存している一番古いヨーロッパ音楽は、グレゴリオ聖歌です。9世紀から10世紀にかけて生まれたといわれていますが、つまりは初期の聖歌。ミサで歌われた音楽でした。教会の中でカトリック教徒たちは、グレゴリオ聖歌を神の声とオーバーラップさせながら、宗教的感動を得ていました。その後、カトリックに反抗して立ち上げられたプロテスタントのルター派も音楽を重要視しました。創始者・ルター自身も作曲をしたほどでした。そのプロテスタント音楽がアメリカに渡り、黒人の信者によってゴスペルに変化したことは、よく知られています。ちなみに、ゴスペルは「福音」という意味です。アメリカの黒人たちはゴスペルを歌い踊りながら、イエス・キリストを讃えているのです。日本の神楽が雅楽の音で舞いを神に奉納するのによく似ています。
国内最高峰の音楽専用ホール
さて、普門館が取り壊されるのは、やはり寂しいですが、現在、東京には多くの音楽専用ホールがあるので、これも時代の流れといえるのかもしれません。数ある音楽専用ホールのなかでもトップの座に君臨しているのは、赤坂アークヒルズ内にあるサントリーホールです。ホール使用料金もホールリハーサルを含め約200万円と“最高峰”ではありますが、その音響の良さが世界的な指揮者の高評価を受け、日本のオーケストラのみならず、世界中のオーケストラの来日公演においても、ホールを予約するのは至難の業となっています。
ちなみに、このサントリーホールの音響設計を担当したのは、永田音響設計事務所の豊田泰久氏。同氏は、今では世界中の新コンサートホールの音響設計を一挙に手掛けるほどの活躍をなさっています。15年前にロサンゼルス・フィルハーモニックの本拠地、ウォルト・ディズニー・コンサートホールの音響設計において、同氏のセンセーショナルな大成功が世界中に轟いた時、僕は同フィルの副指揮者を務めていました。豊田氏の、ステージの床に敷く木材の材質や厚さまで、実際にオーケストラの団員に弾かせて選ぶほど、その緻密な作業に驚いたのでした。
(文=篠崎靖男/指揮者)