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片山修「ずだぶくろ経営論」

マツダ、“比類なきデザイン美”を生み出す、他社とはまったく異なる開発手法の全容

文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家
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 一般的に、クルマのデザインはマーケティングから始まる。ユーザーニーズを調査して、商品コンセプトをつくり、企画にマッチしたクルマを考え、3Dデザインに落とし込んでいく。デザイン検討会議では、実物大の3D画像を映し出して、最終的な確認を行う。

 マツダカーデザインのプロセスは、これとは異なる。そもそも、デザインはマーケティングからは始まらない。前述したように、10年以降発売のクルマのデザインテーマは「魂動」だ。マツダのカーデザインは、「言葉」から始まる。むろん、「魂動」という「言葉」に込められた意味を量産車に具現化するのは、簡単ではない。「言葉」では伝えきれない世界観を、クルマづくりにかかわるすべての人に伝えなければいけないからだ。
 
 そこで、モデラーがつくるテーマオブジェが、重要なツールとなるのだ。「魂動」のコンセプトを造形で表現し、思いの共有を図っていく仕掛けだ。

「デザイナーは、つくられたオブジェを見て、さらにインスピレーションを湧かせる。そこで対話があって、また、オブジェをつくる。1カ月か2カ月、そうした作業を繰り返していきます」

 デザインオブジェは、デザイナーの創作意欲を大いに刺激する。まさに、モデラーとデザイナーとの「共創」である。ひとつのテーマを表現するために、モデラーは100体以上のデザインモデルをつくる。

人の手を通してこそ

 このデザインオブジェをもとにして、クレイ(特殊な粘土)で4分の1モデル、1分の1モデルを繰り返し製作していく。その間、デザイナーとクレイモデラーは、議論を重ねながら造形を昇華させていく。もちろん、デジタルも併用し、人の手でつくり上げた生命感を感じさせるフォルムに磨きをかけていく。

「当然、全員がデジタルデータを扱えますし、いつもパソコンを持って仕事をしています。でも、やはりクレイを削ったり、“包丁”一本でモデルをつくる力がなければいけない」

 デザインの最終確認は、クレイモデルで行う。多くの自動車メーカーは、コンピュータ上でつくり出したデザイン画で最終確認を行うが、マツダはそれをしない。実物大のクレイモデルを広い場所に置き、デザインの評価をする。修正がある場合は、クレイモデルの修正と3Dデータ制作を繰り返し、最終案を決定する。

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

愛知県名古屋市生まれ。2001年~2011年までの10年間、学習院女子大学客員教授を務める。企業経営論の日本の第一人者。主要月刊誌『中央公論』『文藝春秋』『Voice』『潮』などのほか、『週刊エコノミスト』『SAPIO』『THE21』など多数の雑誌に論文を執筆。経済、経営、政治など幅広いテーマを手掛ける。『ソニーの法則』(小学館文庫)20万部、『トヨタの方式』(同)は8万部のベストセラー。著書は60冊を超える。中国語、韓国語への翻訳書多数。

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