120 km/hでカッ飛ばしてきた。新東名高速道路の新静岡インターチェンジ〜森掛川インターチェンジ間の約50kmが3月1日、最高速度を120km/hとする試行が始まった。早速、取材のために試行区間を往復した。
2017年11月から、同区間で最高速度を110km/hに引き上げる試みが行われていた。その結果が良かったこともあり、さらに10 km/hアップで様子を見ようというわけである。
そもそも、国内初の高速道路である名神高速が完成したのは1963年である。日本が高度成長期に沸き立つ頃、日本の大動脈整備のために開通した。あれから56年、時代は大きく変化した。クルマの性能が格段にアップし、走行性能だけでなく安全性も飛躍的に高まった。それなのに、56年もの間、最高速度が変わらないのは道理に反する。速度規制を変えてほしいという要望の主な理由は、それである。
では実際に、新静岡インターチェンジ〜森掛川インターチェンジ間の120km/h規制区間を走行してみて、どうだったのか。
安全性に関しても不安感は皆無だった。120 km/hでの走行が危険であると感じた瞬間はまったくなかった。安全か危険かというだけであれば、100 km/h規制はすぐに撤廃してもいいだろう。即刻120 km/hにするのが望ましいくらいだ。
ただ、120 km/hに変更したところで、目的地に早くたどり着くのかと聞かれれば、答えに窮する。というのも、120 km/h の試行区間に乗り入れても、走行車線をトロトロと走るドライバーが少なくないからである。試行そのものを知らぬドライバーも多いに違いない。何を隠そう、取材のために乗り入れた私でさえ、試行区間に差し掛かった瞬間を知ることができなかったほどだ。
しかも、90 km/h前後で走るトラックが、車線を塞ぐように並走する場面もある。120 km/h規制の対象は、大型貨物や三輪車、あるいは牽引車などは除外される。つまり、より一層速度差が大きくなったのだ。
この弊害は無視できない。大型トラックは90 km/h速度リミッター義務付けの問題もあり、時には装置の誤差を狙って、90 km/hのトラックを91km/hのトラックが抜こうとする場面もある。速度差1 km/hで抜ききるには、3分ほど時間がかかる。その間、後続は長い列になる。実際に2往復して計測した結果、100 km/h走行と120 km/h走行とでは、目に見えたタイム短縮はできなかった。
120 km/h対象車でさえも、トロトロと追越車線を走り続けるドライバーが少なくない。速度差が広がったことで、ドライバーのイライラも重なる。昨今、大きな社会問題になっているにもかかわらず、相変わらず散見される“あおり運転”のきっかけになりはしないかと気をもむ場面もあった。
ドライビングスキルの向上が不可欠
この問題を考えるうえでは、速度無制限のドイツの高速道路「アウトバーン」が参考になる。区間によっては200km/hでも300km/hでも走行が許されているアウトバーンは、速度差が開きすぎるがために、トラック等の低速走行車が追越車線に乗り入れることは禁止されている。
並走する追越車線が順に平均速度が下がるため、トロトロ運転の乗用車も自らに適した車線を選んだ走行をする。背後を確認せずにフラフラと高速レーンに割り込んでくるドライバーは皆無だ。速度差があることを理解しているドイツ国民は、それが自殺行為であることを理解しているからだろう。
新静岡インターチェンジ〜森掛川インターチェンジ間の120km速度規制区間を走行した顛末を個人のFacebook上で公開したところ、「アウトバーンを見習うべきだ」とする意見が多数寄せられた。
ちなみに、ドイツ人のドライビングスキルは、日本と大きな隔たりがある。世界最速の高速道路アウトバーンがあり、一般道であっても100 km/h走行が許されている。その地で育ったことで、クルマを操る能力が磨かれるのだろう。
同時に、安全意識も高い。アウトバーンでさえ、環境負荷を嫌う街付近やカーブの多い区間では130 km/hに制限される。あるいは、学校やスーパーマーケットのある市街地では30 km/hになる。その130 km/h区間や30 km/h区間では、ドライバーは厳格に速度を守るのである。
今回、取材のために120km速度規制区間を走った経験からすると、クルマの性能を考えれば120 km/hでもまったく不安がないが、運転スキルの向上と意識改革が急務だと感じた。クルマの性能が高まり自動車大国に成長した日本が、ドライバーのスキル向上を置き去りにしてきたことのツケは大きい。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)