三井不動産は米国での不動産投資に再挑戦中だ。米ニューヨーク・マンハッタンでは、鉄道操車場の上に人工地盤を築くなどして東京ドーム2.4個分、約11万平方メートルの敷地を捻出し、「ハドソンヤード」の再開発が進められている。複数の高層オフィスや4000戸の住宅、商業施設などが新たに誕生する。
三井不動産は2018年10月、ここに51階建ての高層オフィスビル「55ハドソンヤード」を完成させた。22年には、この高層ビルの2倍の規模を誇る超高層オフィスビル「50ハドソンヤード」が完成する。「50ハドソンヤード」は01年の米同時多発テロで倒壊した世界貿易センタービルの跡地に建てられた「ワン・ワールドトレードセンター」とほぼ同じ規模で、単体のオフィスビルとしてはマンハッタンで最大級となる。
2棟のオフィスビルは三井不動産が現地大手のリレイテッドなどと組んで開発した。投資額は三井不動産だけで5500億円。日本の不動産会社の海外開発案件では最大とみられている。「50ハドソンヤード」の開発費に充当するため、資金使途を環境配慮に絞ったグリーンボンド(環境債)を発行する。国内の不動産業界でドル建ての環境債の発行は初めてだ。発行額は3億ドル(約340億円)。欧米やアジアなどの海外市場で投資家を募る。
三井不動産は18年に公表した長期経営方針で海外シフトを鮮明にした。人口減が進む日本での成長余地は限られる。向こう7年程度の投資額3兆円のうち、半分の1兆5000億円が海外。海外投資の6割程度は米国に振り向けられる。
長期経営方針で「グローバルカンパニーへの進化」を掲げる。25年3月期の連結営業利益は18年期比で4割増の3500億円を目指す。このうち3割を海外事業で稼ぐのが目標だ。18年3月期の営業利益の海外比率は7%台にすぎない。計画の達成に向け、海外での物件開発を積極的に進めていく。
投資のやり方も変わる。以前の海外事業では既存のビルを取得することが多かった。だが、ハドソンヤードを例にとっても、参加区画の費用の9割を負担し、プロジェクト自体に深く関わる。今後、3年で過去最大級となる7000億円の海外投資を実行する。25年までに米ボストンやサンフランシスコなど10都市で19棟、4700戸の賃貸マンションを完成させる。
米国では21年に首都ワシントンやロサンゼルスなど5都市で1000戸の賃貸マンションが完成し、累計開発戸数は11物件、2800戸に達する。利便性の高い、都心などでのマンションの人気は続くとみている。
新たな成長領域を見いだした。米国で研究所を併設したオフィスの建設に乗り出す。21年冬、ボストンで地上4階建ての研究所を併設した賃貸オフィスを完成させた。23年、カリフォルニア州のサンディエゴに4棟、サンフランシスコの再開発エリアに大規模なオフィスを建設する。ボストン、サンディエゴ、サンフランシスコの3つの都市の投資額は1300億円に及ぶ。
クリーンルームなどを備えた研究所併設の賃貸オフィスは、国内では東京・葛西と新木場で手掛けるが、海外は初めてだ。先端医療の研究が進む米国で、大企業や新興企業を誘致し、新薬開発の拠点としたい考えだ。
バブル期の“米国買い”の失敗を教訓とする
三井不動産以外の不動産大手も海外投資に動いている。三菱地所は今後、海外投資に年間に2000億~2500億円を投じる予定だ。米国では物流施設やデータセンターに着目している。
東急不動産はマンハッタンの再開発事業に参画。セントラルパークの南東部の「425パーク・アベニュー」と呼ばれる高層オフィスビル(47階)を総事業費1000億円超をかけて建設した。
バブル期の1989年頃に、三菱地所がロックフェラーセンターを買収するなど、ジャパンマネーによる“米国買い”がニューヨーク市民の強い反感を買った。マンハッタンのビルをいくつも買い漁った三菱地所は、バブルの崩壊で大半のビルを売却し、多額の売却損を出した。高い授業料を払ったことになる。
三井不動産によるマンハッタンの開発プロジェクトは、バブル期の三菱地所の二の舞になる恐れはないのか。成長と株主への利益還元を両立させる好循環に入らなければ、株価の長期の上昇は絵に描いた餅に終わる。
(文=編集部)