大河ドラマや特集番組をDVD化したり、ヒットしたドラマの劇場版映画(『セカンドバージン』『ハゲタカ』など)を製作するなど、NHKのコンテンツ2次利用ビジネスは以前から行われてきた。そして、その都度問題視されてきたのは、NHKが特殊法人で公共放送局であるため、その商業化・肥大化はどこまで認められるのかということだ。
NHKが商業化を進めるターニングポイントになったのは、1982年の放送法改正だ。これにより、NHKは営利事業への積極的な出資が認められるようになった。98年度末には子会社・関連団体の合計は最多の65団体に上ったが、その後、整理・統廃合が進み、現在は営利法人としての子会社は13社、関連公益法人等は9団体、関連会社が6団体となっている。
歴史を振り返ると、NHKは教育テレビの開設など業務の拡大を続けていった結果、赤字体質に陥り、受信料の値上げを何度行っても赤字体質が解消されなくなった。しかしながら、公共放送であるNHK“本体”が営利事業を行うわけにはいかない。そこで、放送法を改正し、子会社を使ってビジネスを展開することにしたのである。番組の版権収入や、民放で行われているような番組制作の外部発注によって、独立採算と赤字体質の解消を目指すことになったのだ。
●NHKグループ内に利益をため込む仕組み
放送番組の制作・購入・販売を行っているのは、85年に設立されたNHKエンタープライズ(略称:NEP)である。NEPはNHKの子会社の中で最大手だ(持ち株比率80%超)。先に例として挙げた『セカンドバージン』や『ハゲタカ』もそうだが、8月31日から公開予定の『劇場版タイムスクープハンター 安土城 最後の1日』など、映画製作も手がけている。
NEPの2012年度の売上高は511億円、純利益は11億円だ。この売上高は番組制作会社の中では、トップである。さらに、日本の上場企業約3500社の中でも、宮崎銀行やアデランスに匹敵する規模で、上から1250番目くらいのランクだから堂々たるものだ。しかも、宮崎銀行は社員数約1500人、アデランス約2000人に対し、NEPは537人(7月1日現在)しかいない。親会社NHKの版権をベースに効率良く稼いでいるのがよくわかる。
NHKは単体の決算のほかに、子会社との連結決算を発表しており、NEPを含む13社が連結対象だ。つまり、NHKと子会社は別々ではなく、一体化した企業体として見るべきなのだ。NHKの事業収入のうち、90%以上は受信料だが、そのお金を子会社に支払って番組を制作させたり、業務委託しているのであり、“NHKグループ”から利益が外に出ないようにしているのである。
グループ内でお金が回る仕組み自体に問題はないが、随意契約による業務委託であるために、高コスト体質になっている可能性は高い。実際、06年に会計検査院は、NHKの子会社など関連33団体(当時)の利益剰余金が05年度末で総額886億円に上っていると発表した。検査院は「主たる財源が受信料である以上、取引を通じて関連団体に過剰な利益を与えないようにすべきだ」と改善を促している。
利益剰余金とは、いわゆる内部留保のことで、総額で書いてあるから、子会社・関連会社の創立時からこれまでの累積金額のことだ。NHKは受信料の一部を子会社の利益としてプールしてきたことになる。
派遣会社からの派遣社員として、NHKでニュース番組の制作に携わったことがあるというAさんはこう話す。
「派遣先はNEPでしたが、実際に勤務していたのはNHKのスタジオでした。NEPの人とはほとんど会ったことがなかったですね。番組制作部門では、NHK本体が外部からスタッフを直接雇うことはありませんでした。ただ、民放よりも条件が良かったし、働きやすかったですよ」
NHKグループの親子関係については、天下り批判も多い。例えば、NEPの社員537人のうち、NHKからの出向は120人もいる。社員の平均年齢は48歳で、常に新しい感覚が求められる番組制作会社としては恐ろしく高齢だ。出向者が平均値を上げているのは容易に想像がつく。親会社からの天下り先となっている実態がここにある。
●子会社の“儲け”に関するガイドラインはなし
NHKは受信料を昨年10月から月額最大120円値下げした。値下げは12年度から3カ年の経営計画で決められたことであり、現行の受信料体制になった1968年以来初めてだ。
子会社の事業収入は、「NHK本体の受信料収入を補完するため」(総務省放送政策課)とされているが、もし今後も子会社が儲けた分を契約者にある程度還元するというのであれば、子会社の積極的な事業展開にも少しは理解が得られようというものだが、少なくとも今回の値下げにそういう意図はないようだ。NHKでは制作費流用など不祥事が相次ぎ、受信料の不払いが増え、それによって失墜した信頼の回復を狙ったという側面が強い。