「複職の権利」創設を目指して…週1日は別企業、1日2社で勤務など多様化の重要性
複職ができない企業を辞めて、別の企業に転職すればよいという議論もあろうが、一部の優秀な人材を除き、そう簡単に転職できない人材もいる。年功序列や終身雇用に代表される日本型雇用が揺らぎ、その生活保障機能が低下するなか、リスク・ヘッジのために複職を望む個人に対し、就業規則で複職を禁止し、一つの組織に縛りつける戦略は本当に理にかなっているのだろうか。
政府として、そのような個人を支援するためにも、法的に「複職の権利」を創設してはどうか。雇用のポートフォリオ構築のため、週5日のうち1日程度は、別の企業での業務に従事したり、NPO等での非営利活動をしたい個人も多いはずである。「複職の権利」とは、例えば、このような個人が別の組織での業務に従事したい旨を申請した場合、基本的に許可しなければならないという法的な制度である。当然であるが、その場合、就業規則で定められたルールに基づき、本業の企業は支払う賃金を減額できる仕組みも重要である。
諸問題の解決の必要性
なお、「複職」を本当の意味で推進するためには、雇用保険の適用問題や社会保険料の徴収方法のほか、労働時間の通算問題や労災保険給付などの問題も検討を進める必要がある。
このうち、労働時間の通算問題について、現行の労働基準法では、本業と副業の労働時間を合算して適用するルールとなっており、残業代など割増賃金の取り扱いにつき、本業と副業のどちらの企業が負担するのかという問題が発生する。
「1日8時間、1週40時間」を超えて働かせる場合、労働基準法に従って割増賃金を支払う必要があるが、例えば、本業のX社で1日5時間働き、その後、副業のY社で1日4時間働くケースでは、後に働くY社が1時間分(=9時間-8時間)の残業代を支払うのが一般的である。しかしながら、X社とY社との労働契約が両方とも「所定労働時間4時間」であるとき、1時間分の残業代を支払うのはX社となり、これは異なる事例の一つにすぎない。
このような複雑な問題を解決する一つの方法は、適用可能な業種に一定の限界があるものの、労働時間と成果・業績を連動しない「裁量労働制」(仕事のやり方や労働時間の配分を労働者の裁量に委ねる労働契約)を利用することである。
また、マルチジョブホルダーに関する雇用保険の適用問題についても日本の取り扱いはフランスやドイツと異なり、本業の雇用関係しか適用されない(図表2)。一度に解決できる問題ではないが、プロジェクト型のジョブマッチングを行うプラットフォームを運営するサイト(例:ランサーズ)やクラウドワーク等の浸透でマルチジョブホルダーが引き続き広がることは確実であり、徐々に検討を深めていくことが望まれる。
(文=小黒一正/法政大学経済学部教授)