今国会は厚生労働省の統計不正問題一色となっている。不正が行われた毎月勤労統計は、雇用に関する基幹統計の一つであり、雇用というのはアベノミクスのカギを握る最重要部分といってよい。
安倍政権の支持者は、アベノミクスによって雇用が増えたと喧伝しており、一方で反安倍派は、賃金が上がっていないと強く批判している。しかしながら、日本経済の現状を考えた場合、両者の対立にはあまり意味がない。
雇用が増えて賃金が低下するのは構造的な要因であり、日本経済は雇用と賃金を両立させるのが難しい状況に陥っている。雇用と賃金が両立しないのは大きな矛盾だが、この問題に直結する統計で不正が発覚したというのは、何やら因縁めいたものを感じてしまう。
賃金が上がらず生活が苦しくなっているのは本当
今回の統計不正の程度はともかくとして、日本の実質賃金が上昇していないのは事実である。名目上の賃金はそれなりに上がっているが、同じように物価も上がっているので、消費者が実際に使えるお金は増えていない。
日本ではデフレが続いているとされてきたが、「インフレ」「デフレ」というキーワードには多分に情緒的な要素がつきまとう。アベノミクスがスタートした当初を除き、物価上昇率が鈍化しているのは事実だが、実は物価の絶対値は一貫して上がり続けている。インフレ、デフレという言葉について数字だけで議論するなら、今の日本経済は間違いなくインフレということになるだろう。
今年の春は、乳製品や飲料、アイスクリームなど食品類が軒並み値上げされる。しかしメーカー各社は、以前から、価格を据え置きつつも内容量を減らすという、いわゆる「ステルス値上げ」を繰り返しており、食品価格は実質的にかなり上がっている。
飲食店のように価格弾力性の大きい業態については、値上げすると売上高が一気に落ちるので、不本意でも価格を据え置くところが多い。だが公共料金など利用者に選択権のないサービスの場合、価格は上昇一辺倒だし、自動車のようにグローバルに価格が決まる業態も同じである。過去10年の間、自動車の価格が安くなったことは一度もない。
一般的にインフレは景気がよい時に発生するので、景気拡大とインフレはセットになることが多い。量的緩和策は市場にインフレ期待を生じさせることで実質金利を引き下げ、設備投資の拡大を狙う政策なので、まさにインフレと経済成長がセットになっている。本来、期待されたほどに物価が上昇しないので、逆説的に「デフレ基調が強い」と表現されるだけである。